第4話 エルフの哲学、ハーフエルフの哲学

 ハーフエルフのゴロー。

 奴は必ず仕留めなければならない。

 だけど、その実力の程が分からないわ。

 だから、しばらく後をつけるしかない。


 ゴローは時々後ろを振り返るけれど、見つかるはずがないわ。

 私は精霊を呼びモグラのごとく、地中を進んでいるのだから。


 おや、前方にもう一人。

 モリオだわ!

 本命候補のモリオと有力候補のゴローが衝突すれば、あわよくば共倒れを狙うこともできるわね。


 両者共に相手に気づいたようだわ。急速に接近している。

 お互いのエネルギーもどんどん高まっていくわ。スカウターなどがあれば、一万、二万、ボカンと破壊されるような展開ね。


 ついに二人が対峙したわよ。

 私は地中一メートルくらいから、精霊の力を駆使して聞き耳を立てているわ。

「ゴロー、どうして森を出て行かないのだ?」

「……モリオ、俺にはやらなければならないことがある」

「そんなものはない。出て行け」


 ハーフエルフはエルフと違って成長が速いわ。

 だから、森の外に出て行ってもワンチャン生きていける。

 一方、エルフは成人すれば安泰だけれど、それまでは弱い存在。

 畑で巨木と雑草が競争したら、人間が手を入れなくても雑草が勝って巨木は成長できないわ。

 エルフは森で大きくなるしかない。だけど、ハーフエルフは必ずしもそうではない。


「ゴロー、貴様は南米・パタゴニアに広がるブナの原生林を見たことがあるか? あの中にクヌギが一本でもあってみろ。森はたちまち無秩序になり、崩壊する。ゴロー、貴様という存在はパタゴニアを潰すクヌギのような存在だ! ここに残るというのなら、このモリオが容赦しない!」

「モリオ、おまえは世界の発展を知らない。リンゴを見るがいい。あれは元々カザフスタン発祥だが、元来のリンゴは酸っぱすぎて食えたものではない。それが様々な近縁種と交配することによって、広がり、逆輸入されるに至って、今のカザフスタンはリンゴの王国となったのだ! モリオ、貴様が語る森は古代時代の森だ。森は変わらなければならないんだ!」

 お互い、難しいことを言っているわね。


「……言葉は無用ということか」

「来いよ、モリオ」


 ゴローが挑発気味に語った途端に、暴風が吹く音が聞こえたわ。

 モリオが風の精霊を呼び出したようね。さすがに本命だけあってすごい力だわ。

「この程度でゴンゾーの再来ってか!?」

 でも、ゴローも耐えているようね。


 激しいバトルになりそうだわ。

 でも、この話に熱いバトルを期待している人はいないでしょうから、五倍速の早送りで進めるわね。


「チャカチャカ、ガニャガニャデャ!」ゴゴウ! ドカーン! ズキャン!

「ワキャホキャ、カキャクキャ!」ビュウウウウ! ヒュゴォォォォ!




 ……そろそろ終わるかしら。元の速度にっと。


「……どうやら、お互い、あと一撃を撃つのがやっとのようだな」

「あぁ……この俺の最後の奥義をもって決着をつけよう、ゴロー」

「「ハアァァァァ!」」

 いよいよ最後の一撃のようね!


 一瞬の沈黙の後、二人の「うおぉぉ」という雄叫び!

 そしてまた一瞬の沈黙。


「モリオ……森は……、変わらなければ、ならないんだ……ゴフッ!」

 倒れたのはゴローだわ!

 勝ったのはモリオのようね!


「さらば、ゴロー。おまえの魂は俺の中で永遠に生きていく。おまえもまた、強敵ともだった」

 モリオの言葉に、周囲の成人エルフも感銘を受けているわ。

『おぉぉ、モリオが相手の魂を己の中に』

『モリオは相手の強さを自らの強さに変えている』

『見えるぞ! ゴンゾウの姿が! モリオの後ろに』

 モリオが絶賛されているわね。

 よいしょっと。


「ガハッ!」

『何!? いきなり地中から木々の刃が!?』


 悪いわね、モリオ。

 このまま治るまで待っていたら、勝ち目がなさそうだから、ここで決着をつけさせてもらったわよ。

 貴方もまた強敵カモだったわ。

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