第3話 中盤戦の子エルフ達

 ディード村にはゴンゾウの後継者として子エルフ1万が生まれたわ。


 それが最初の72時間で三分の一になり、10日後には四分の一になった。

 ただし、そこからは減少が緩やかになっていくわ。


 当たり前よね。自分以外の皆がライバル。

 変に目立ったら集中砲火が待っているもの。

 慎重に行動する者のみが生き残れるのよ。


 ただし、慎重さも方向を間違えるとまずいわ。

 たまに生き残ることに必死になりすぎて、木々を切ったりして自分の家なり防御施設を作ろうとする奴がいるのよね。

 ナンセンスだわ。

 森に生きる者が木々を切り倒すなんてあってはならない。

 こういう連中は成人エルフからお仕置きで消されてしまうのよ。

 もちろん、木々の多いところで火の精霊を召喚するのも即、処刑ね。

 エルフは森あってこその存在、そこをはき違えてはならないわ。



 もぐもぐ。

 倒したエルフの力を吸収することで私達はパワーアップしていくわ。

 森の掟と同じで、力尽きた別の芽からエネルギーを奪い取るわけなのよ。

 森林は平穏だけど、とてつもない弱肉強食の世界なの。


 


 あんた達の無念は私が晴らすわ。唯一無二のエルフの後継者となってみせる!

 もぐもぐ。



 3年が経過する頃には、100人まで減少してきたわ。

 そして、この頃になると、生き残った面々が村の掲示板に出されるようになる。

 成人エルフ達にとっては面白い余興になるわけで、誰が勝つか賭けたりすることもあるようだわ。


 本命は……やはりモリオのようね。森の男という名前をもち、幼児の頃からゴンゾウの再来と呼ばれていた優秀な子エルフ。二か月前にもう一人の有力候補・リキを一騎打ちで堂々と叩き伏せて更に高い評価を受けるようになったわ。


 その次がトールキンの35号。際立った特徴のない子供については途中まで名前がなくて、こういう形で呼ばれることも珍しくないのよ。競馬のセレクトセールみたいだけど、繁殖期には一人のエルフが100人くらい作るのが普通だし仕方ないことだわ。

 35号の生態はまさに食虫植物。やばい媚薬めいた香水の匂いを漂わせていて、男女問わず近づいてきたものの精気を吸い取りつくす魔性の存在だわ。


 私、メガミはその後のマツ、ゴローに続く五番手の評価ね。「性格が陰険で人の背後から襲うことも辞さない。メガミが生き残れば、森は戦国時代を迎える可能性も」とか書かれているのが心外なんだけど。


 あ、無防備なエルフがうろついているわ。

 ……。

 ……。

 ……。

「滅!」

 グシャアッ!

「えっ? こんなところに候補者が!? お、おまえは……メ、ガ……ミ……」

「スナオ、おまえの死は無駄にはしないわ。私は生き残ってみせるからね」


 もぐもぐ。


「メガミ、近くにゴローがいるぞ」

「……えっ?」

 急に成人エルフの声が聞こえてきてびびったけれど、確かに、近くをゴローが歩いているわ。


 ゴローは純粋なエルフではなく、ハーフエルフとエルフが交配して生まれた特殊な形態なの。ハーフエルフが人間社会に行って人間と交配するのは時々あるけれども、森に残ったハーフエルフとエルフが交配なんて、まずないからね。

 だから、ゴローは森の成人エルフには嫌われているの。エルフという種族は保守的だから、中立とはいいつつ、ゴローに関しては色々教えてくれるわけ。


 それは有難いけど、森にいる成人エルフ全部から情報を流される不利な環境にありながらここまで残っているゴローはかなりの才能を有していることも示しているわね。


 ゴローを闇討ちするチャンスではあるのだけど、スナオと違って、ゴローは才能を評価されているエルフだわ。迂闊に襲撃したら馬鹿を見る可能性もある。

 できれば、他のエルフを焚きつけて、ゴローの実力を確認したいところではあるわ。でも、そういう都合のいいエルフがいるかしら……?

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