期待と不安の様相を、凪のような筆致が独特な世界観を練り上げる

人はみな満たされたいいきものだ。
とは本作のキャッチフレーズですが、その言葉にあるように登場人物たちはまるでパズルのひとかけらが抜け落ちてしまったかのように空虚な部分があります。立ち上がりから不穏な空気を漂わせて、ひたすら愛情という名の不確かなものを求める人間模様は純粋でいながらも、不安定でときに怖くもあります。どこにでもある静かなすれ違いから離れ、くっつきする感情の揺蕩は、読むものになにを思わせるのでしょうか。期待と不安をないまぜにした恋愛物語に、だれもが指の隙間から見てはいけないものを見るような高揚を覚えることと思います。
ぜひ読んで体感してみてください。