どこへ向かっているのか分からない


 心に深い傷を負った私は、知人のAさんと一緒に、アメリカでは合法の「C」を使用する。
 その効果はあったようで、傷は曖昧になり、ウサギが見えるようになる。痛みが薄れることに気を良くした彼らは「C」を使い続ける。

 こうして二人の男は己を慰めながら、化学的に溶けはじめて……





 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「H*****」という曲がある。
 伏字はアメリカでも合法じゃない薬物の名前だ。

 レビューのタイトルはその歌詞の和訳なのだが、この作品を読んでいる間、この部分がずっとリフレインしていた。

 この作品は、薬物がもたらすスゴイ効果(副作用)や、乱用に至る悲劇的な物語を描いているものではなかった。
 薬物はあくまで物語のきっかけであり、「依存」というものにテーマがあるように感じられた。

 薬物を利用したのではなくとも、何かに依存したことならあるはずだ。
 依存の対象となるものは……薬物はもちろん、ギャンブルや酒、タバコ、セックスといったものだけとは限らない。
 コーヒーが手放せなくなった、スマホを触りたくて仕方がない、ついつい散財してしまう、常に何かを口に入れたい、いつも音楽を聞いている、ずっと評価され続けたい、何かを書かずには、読まずにはいられない……

 依存とは卑近にあるものだ。それが良いことが悪いことかは知らない。依存の原因はおろか、自分が依存していることすら自覚しないこともある。


 空しさから、寂しさから、あるいは現実の克服、または逃避から。
 二人の男はお互いを旅の道連れとして、ぼんやりとした薄明の世界へと足を踏み入れた。
 読者は旅の様子を、彼らのシルエットを通して見つめることになる。

 彼らは一体、どこへ向かっていったのだろう。