流星のごとき光が僕らの空を覆い隠して

ナナシリア

流星のごとき光が僕らを覆い隠して

 僕らの目下に夏祭りの屋台が広がり、大量に吊り下げられた提灯が、暖かい色ながらも眩しい光を放っている。


 僕らは、そこからほど近い、誰もいない丘の上に二人並んで座している。 


「花火、楽しみだね」

「そうだね」


 僕と彼女は、近所ともいえないが遠方ともいえない絶妙な場所へ花火を見にやってきていた。


 夏の、昼と夜との温度差が僕たちの体を突き刺す。


「結構寒いね」

「僕、上着持ってきてるから着る?」

「いいよ、自分で着なよ」


 僕たちの関係は、現在壊れかけているように感じている。


 僕と彼女が初めて会って頃は、もっと物理的にも心理的にも距離が近かった気がする。


「寒いなら着た方がいいって」

「そこまで言うなら」


 僕の渡し方も彼女の受け取り方も、どこか素っ気なさを内包している。


 冬というほど冷たいわけではないので、二人の関係に秋が来たという表現が最も近いだろう。


 上空に目を向けると、夏の夜とは思えないほど真っ暗な空が僕らの頭上を覆い隠している。


 突然、空の闇を強い強い光が切り裂いた。


 強い光は上空へ上り、大きな火が花となって開く。


 僕は息を飲むしかなかった。


 あまりに綺麗なその花、空を塗りつぶした夜の真っ暗闇をさらに上から塗りつぶす光に僕は見惚れた。


 連続で放たれる光が途切れたタイミングで、隣にいる彼女へと視線を移す。


 彼女もこちらを見ている。


 視線が合った。


 普段なら気まずさからすぐに逸らしてしまうところだが、今日は空の闇を塗りつぶした花火が僕らの関係を一度塗りつぶした。


 どちらからともなく体を寄せ、出会った頃かもしくはその時よりも近い距離に近づく。


 花火が再開された。


 互いの方を向いて近距離から見つめあった僕らを横目に、空では大きな花が咲き誇っていた。


「綺麗だね」


 余計な修飾語はノイズになると思い、ただそれだけの言葉を発する。


「うん、綺麗だね」


 きっと彼女もそう思ったのだろう、シンプルな同意だけが帰ってきた。


 言葉が短いからと言って、感情が籠らないということはない。そんな当たり前ともいえることに今更気づいた。


 花火の爆音も聞こえないほど、僕と彼女の間には熱があった。


 僕は彼女に恋をした。


 明確に意識したのは、今日が初めてだった。


「僕、君のことが好きだ」

「私もずっと、君のこと好きだってアピールしてたんだよ?」


 花火を背景に、僕の言葉を聞いた彼女の不満が爆発した。


「それなのに君は全然気づかない」

「ごめん」

「花火を見に誘ったのも、嫌われてるかと思ったから」

「嫌いじゃない、好きだ」


 少し照れ臭いけど、夜の闇が僕の顔を隠してくれるから、言えた。


「これからよろしく」

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流星のごとき光が僕らの空を覆い隠して ナナシリア @nanasi20090127

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