第2話 失意の俺が出会ったのは、〇〇でした。

「だって雑草は抜かないとすぐ広がるじゃん。雑草は農地の天敵なんだからね? 一度侵入を許すと根絶に5年はかかるんだから。百害あって一利なし!」


「だからこれは雑草じゃないんだって。めちゃくちゃ希少な薬草なの! それがここには、こんなにたくさん生えてるんだ。ちょっと信じられないことだぞ、これは!」


 俺は改めて確認をしてみたが、間違いなくマナ・ケールだった。

 正直、信じられない。


「ライナスには薬草かもしれないけど、我が農園にとってはこれは雑草なんです! すぐに農地を侵食する悪魔の草なの! だから抜きます! 天誅!」


「だから抜こうとするなっての! いや待て? 今なんて言った?」

「悪魔の草だから抜くって言ったの」


「その前だ」

「えーと、すぐに農地を侵食する、かな?」


「それだよ! マナ・ケールが、農地を侵食するくらいに広がるのか?」

「そうだけど、それがどうしたの?」


「それマジ話なのか? マナ・ケールは自生場所が少ない上に、人工栽培が不可能な超希少な薬草なんだぞ?」


「この雑草の細かい生態なんて私、知らないし。だから抜きます!」

「だから抜かないでくれって! ……って、待てよ。これはチャンスじゃないか?」

「急に考え込んじゃって、どうしたのさライナス?」


 魔術のことを何も知らないシルファは、俺の言いたいことがイマイチ分かっていないみたいだが、カサンドラ魔術学園を主席卒業した魔術のスペシャリストの俺は、事の重大さをひしひしと感じ取っていた。


 これは世紀の大発見になるかもしれない――!


「この農地の土地の成分を知りたい。マナ・ケールと一緒に土を貰っていってもいいか?」

「雑草とうちの農地の土なんか研究してどうするのさ?」


「これはもしかしたら、もしかするかもしれないぞ。それとしばらくマナ・ケールは抜かないでくれ」

「それは無理な話です。いくらライナスの頼みでも聞けません。我が家の生活がかかっているんです」


「この通り、な? このマナ・ケールには、俺の人生がかかっているかもしれないんだ。何でも言うこと聞くから、な? 頼むよ、この通り!」


 俺が土下座して頼みこむと、


「もぅ、しょーがないなー。じゃあお父さんにも抜かないように言っとくね」

 シルファは渋々といった感じで首を縦に振った。



 この日から俺は研究に研究を重ね、マナ・ケールが育ちやすい土地や環境、栄養条件や日照量などを徹底して調べ上げた。

 そしてシルファのお父さんから農地の一画を借りて、マナ・ケールの人工栽培&大量生産に乗り出した。


「ねー、ライナスー。こんなにいっぱい雑草を増やしちゃってどうするのさ?」


「だから雑草じゃないんだってば。マナ・ケールはそれはもう希少な薬草で、その名の通りマナが含まれていて、食べると体内にマナが取り込まれて、体力と魔力が活性化されるんだ」


「活性化って?」

「魔術師だったらマナが回復するし、一般人もマナを取り込むことで元気になるんだよ」


「この雑草を食べると元気になるんだ? 健康食とか滋養強壮剤ってこと?」

「まぁ、そういうことだな」


「でも仮にそうだとしても、これ絶対美味しくないよ? 間違いなく苦いし」

「ふふん、味に関しては既に解決済みだ。俺に抜かりはない。まぁこれを飲んでみろ」


 俺はマナ・ケールにハチミツやらなんやらを混ぜ込んで渋みや苦味を中和し、とても飲みやすくした最新のマナ・ケール青汁の入った小瓶を、シルファに手渡した。


「なにこれ?」


「試作に試作を繰り返してついに完成にこぎ着けた、量産化直前の最終試作品だ。摂取しやすいようにドリンクにしたんだ。なかなかいいアイデアだろ?」


「緑色の液体は生理的に飲みたくないんだけど……」

「ごめん、色はちょっと変えられなかった」


 だよなぁ。

 唯一突っ込まれるとしたらこの緑色だよなぁ。


「ニンジンでも入れてみたら?」

「ありかもしれないな。でも味は保証するから、とりあえず騙されたと思って飲んでみてくれないか?」


「分かった。ライナスは嘘はつかないしね。ゴク……ふわっ、美味しい!」

 マナ・ケール青汁を飲んですぐに、シルファの顔が驚きの色に染まった。


「だろ?」

「これなら子供でも飲めるよ!」


「そうさ。魔術師のマナ回復だけでなく、老若男女問わず気軽に飲める万能の滋養強壮剤。それが俺の開発したこのマナ・ケール青汁なんだ!」


「あの雑草からこんなの開発しちゃうなんて、ライナスってもしかして超すごいんじゃない!?」

「ふふん、だから何度もそう言っただろ」


「でもお高いんでしょう?」


「いいや、価格は従来のマナ回復薬の1/100。庶民でも手が届くお値段で供給可能だ」


「1/100!? やすーい!」


「しかもこの先、量産化が本格的に軌道に乗れば、さらにコストを下げることも可能だ」


「ここからさらに安くなるの!? すごーい!」



 その後、俺の開発したマナ・ケール青汁を、シルファのお父さんの農作物の販路を通して販売したところ。


『安くて効果抜群』『10歳は若返る』『徹夜のお供に最適』『女房の機嫌がよくなった』『ジュースとして飲めるくらいに美味しい』などと口コミで広がって爆売れし。


 またたくまに納期が6か月待ちの人気商品となるだけでなく、王家や貴族、さらには王立魔術院や魔術騎士団にも純度の高い特注品を納入するなどして、俺は天文学的な大儲けをした。


 そして幼馴染のシルファと結婚して、子宝にも恵まれたのだった。


 ちなみに例の俺を陥れたボンボン御曹司の実家は、マナ・ケール青汁によって主力商品のマナ回復薬の売り上げが壊滅的な打撃を受け、近々身売りするとかしないとか。


 なにせマナ・ケール青汁は、従来のマナ回復薬の1/100以下の価格なのだ。


 ボンボン御曹司の実家が魔術業界にどれだけ強い影響力があろうとも、さすがにこの価格差の前では、なす術はなかったというわけだ。


 ま、俺にはもう関係のない話だけどな。


 ハッピーエンド。

 ちゃんちゃん♪


――――――


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(「w」←マナケール)

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~〇〇無双~ 名門魔術学院を首席で卒業した俺、次席卒業の大手魔術企業のボンボンに逆恨みされて就活を妨害され、無職になる。「そんな時に出会ったのが、この〇〇でした」 マナシロカナタ🐈ねこたま25年夏発売予定 @kanatan37

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