第7話
「ということで設定を練れって言われました」
「ほう」
あんぷろ運営開発部。この部屋は現在私たちが占領している。
ちなみに後輩君は私に缶コーヒー一本を残して家に仕事のために帰り、社長は仕事があるからということで何処かに消えていった。
ちなみに後輩に関しては私の説得要員として社長に呼び出されていたらしい。
そして残された私はスタジオで暇をしていそうだった奴を引き摺って開発部に拉致してきて今に至る。
「というか連れてきて大丈夫でした?収録終わってます?」
「それは全然いいんだけど俺氏で良いの?設定って結構重要な気がするんだが」
「オタクにとって設定とは超重要事項。それにあんぷろに所属しているということは夢小説やア〇オタwiki、P〇xivなんかにも適応されますからね。そんな設定を練り上げるとなった時に一緒に居て心強い私と似た思考の持ち主......つまり俺君しかいないのですよ」
「成程、そうなれば協力するしかないですな」
そう言って頷く目の前の青年、白井裕太。俺氏という名前で活動するあんぷろ二期生の一人である。
その名の通りオタクである彼は、あんぷろの中でも弄られキャラとしての地位を確立しつつもその低音ボイスや若干ダウナーな感じのノリを持つライバーである。
そして配信準備などでゲームの話をしたところ無事オタク同士仲良くなり、今回はそんな俺君に手伝ってもらおうという考えである。
「モデルとかはある程度もう見てます?」
「俺氏も実は呼ばれてたから配信ごとみたかなあ」
「なら話は早いですね。とりあえず魔術系統で行く予定です」
「まあ妥当ですな。ちなみにアオイ氏は水だけどマヤは何を扱うんだい?」
「そこなんですよね」
「まあでも開発スタッフっていうのが知られてるんならそういう方向性に行った方が良いんじゃない?魔術技師とか」
「良い感じですね。そうなると何か魔法陣とか魔道具とかの機械を扱うってことになりますよねえ。そうなるとやっぱりパソコンですよね」
「まあでもその世界観だったらソースコードを詠唱みたいな感じで使った方が良いかもしれないなあ。ちなみにその力は何に使うんだい?」
「一応あんぷろのスタッフなのでライバーの為にですかねえ。上手くいけばそのまま挨拶に転用できそうですね」
「んー......」
止まらない設定の構築もといオタク談義。
本来であれば会議を重ねてビジュアルと共に設定を書き出しながら矛盾点などを潰したりしたり色々するのだが、方向性も何もスタッフであるという上にもうビジュアルが公開されてしまっているのだ。
なので後は後付けで設定を足していくだけである。多分ライバーの中でも自分でキャラクターの詳細をここまで決められたのは私だけだろう。
「よし、こんなもんですかね」
「そうだね。かなり練りこんだから完成度も高く出来上がったと思うよ」
「後は書き出したこのメモを社長に渡せば大丈夫そうですね」
「こういうのって本来マネジメント部通すべきなのでは?」
「マネジメント部も何も私マネージャーさんすらいないので行ってもどうしようもないんですよ」
先程も言った通りここまで異例な奴は私だって見たことないのだ。もうどういう手順踏んでいけばいいのかなんて今まで私が見てきた例は全く役に立たないのである。
「君も大変だね」
「大丈夫ですよ。配信出てくれと言われた時から既にどうにでもなれと思ってますのできっとどうにかなりますよ」
「強いね」
「まあ初っ端からヤケだったんですけどね。楽しけりゃ儲けものですよ」
「もしかして酒飲んでる?」
「車で来てるのにそんなことするわけないでしょう。こんなテンションでもないとやってけないんですよ急展開過ぎて」
「......今度ラーメンでもご馳走するよ」
「わあい」
そんなことをしながらも社長にイメージや三面図を添付したメールを送り付ける。今日中には制作チームが編成され、そこから一気に来週末の発表までに完成まで持ち込ませる予定だと聞いている。マジで急展開である。
しかしまだ安心できるのは、さっきも言った通り現段階で既に路線やモデルが出来上がっているからである。
そもそもなんでここまで四期生の制作が遅れたのか。それはそれぞれ方向性が定まらず、企画の段階で遅れていたからである。本当はここまで遅れるはずじゃなかったのだ。
しかしイメージが固まっていれば後はオープニングやエンディング、配信の背景素材やBGMなどの外注や制作を行うだけである。
既に正午を回っているものの、ここまで約5時間。企画を練った時間がこれだと考えれば途轍もなく早いはずである。別に早ければいいという話でもないのだけれども。
「まあこれでなんとかなりそうですね」
「後は素材とか動画の制作とイラストの外注?」
「そうですね。まあ外注でかかる時間によっては私が描くことになるかもしれませんけど。まあ私の方の仕事も大分終わってるので大丈夫だと思いますよ」
「それって所謂オーバータスクなのでは?」
「何言ってるんですか。この会社でライバー含めオーバータスクじゃない人なんていませんよ?」
「......それもそうだね」
そう言い、俺君は欠伸をした。
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