第5話
「んじゃマヤちゃんお疲れ。またねー」
「お疲れさまでした。それでは」
適当に締め、エンディングに切り替える。あっさりしてるがこんなもんで良いだろう。
この後アオイはまた配信がある為、ここで一旦落ちるのだろう。
そして私は私でしなきゃいけない作業があるのだ。
「さーてと、ちょっと働きますかね」
通知をすべて落とし、ヘッドホンで自分の好きな音楽を流す。
これが私の作業スタイルである。これで会社に居ようと家に居ようと同じ環境で作業をすることが出来るのだ。良いよな。
「んと、モデルの動きが不自然だったとこは......」
私が先程使ったモデルは元々ライバー達に渡されている物をベースとしているのだが、レスポンスの向上や拡張性の向上、更に滅茶苦茶細かく調整が効くようにしたりなどとバチクソに改造を施した代物である。
故に不安定な点も多く、今回の配信でも一部の動作が若干おかしかったり気に入らない場所があったのだ。
そこで実は配信しながらも水面下ではこっそりとレポート用紙3枚に改善点を書き溜めていたのだ。
とりあえずそれをもとにキーボードを叩いてソフトの修正をしていこうと思う次第だ。まあ新人さんのモデルもある程度仕上がったからちょっと寄り道しても良いだろう。
「んあー、私のモデルだけじゃ直ったか怪しいな。よしアオイつーかお」
そして私、開発時になると独り言が無茶苦茶に増えるのだ。
「ん、重力関係が問題だったとは。でもよし、これで一気に片付いたかな」
書き直したソースコードを保存し、また別の問題点に取り掛かる。次から次へと湧き出るバグ。それを直してはテストをし、気にいるように作り直す。この作業が楽しいのだ。
そして気が付けば実装したい機能を思いついてはそれの制作に取り掛かり始める。会社ではそれが出来ない分、家ではやりたい放題である。
「えへへぇ......開発気持ちい♡」
次々と実装される機能と改善されていくソフト。本当なら多分この実装したい機能を付け足していくからバグが増えるんだろうな。
だがやめられないとめられない。それがこの作業である。
「私のx61でも動くようにできるんじゃないのかなあ。今度軽量版作ってみるか」
作業を続けて数時間。ニヤニヤしながら出力したソフトを起動させ、そして違和感に気づく。
「あれ、なんか重くない?」
なんか処理ループしてるのか、パソコンというよりなんかソフトが重い。まあ一瞬とかなんだけどカーソルにラグがあった気がしたんだよなあ。
ここで考えられるのは二つ。書いたプログラムをミスったか別ソフトが足を引っ張ってるかである。にしてもなんか重い。やっぱ裏で変なタスクでも動いてるんじゃないのか?
「corei9積んでて処理落ちはないよなあ......あった」
一応怖くもなってきたのでタスクマネージャーを開いてみる。実行プロセスからメインタスクを開くとそこにある配信用ソフト。プロセスの状態としては『配信中』。
ちょっと待てどういうことだ?
「ファッ?!」
:お、気づいた
:開発配信凄かったです
:これがマヤさんの実力ですか
: トレンドおめでとー
【水瀬アオイ】:修正お疲れさまー
:水瀬来とるやんけ
「あああっ、と、とりあえずタスクキルして配信切り落とします。お疲れさまでした」
:タスクキルは草
:何が何でも落とす気で草
:あれ、ソフト保存した?
残念ながらコメントに構っていられる暇はない。今は早急に配信を切らねばならないのだ。
配信を終了させ、タスクの終了なんて全無視してそしてそのままシャットダウン。からの流れるようにエナドリ一気飲み。
無理矢理シャットダウンさせた私のパソコン。繋がれた二つの黒い液晶に映る中々げっそりとした顔をしている私。終わったまである。
「......あぁ」
とりあえずどうしようもないから一旦スマホを開いてみる。通知をオフにしていたから気づかなかったが中々な量の通知が来ている様だ。
「なんかの間違いで全部セキュリティ通知だったりしないかなあ......うげ」
何回も不在着信があり、各種チャットアプリにそれぞれ通知が溜まっている。どこぞやのVTuber系のラノベでなんだか見たことある気がする。送り主はアオイと社長、そして他のライバーさんも居る。
ヤバいなあ。結構大事にしてしまったかもしれない。
「......あぁ」
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