第2話
青い瞳と髪に合わせられたローブやエフェクトは水属性の魔術を操る彼女を派手過ぎずも華やかに彩り、少し眠たそうなその表情は彼女の落ち着いた柔らかな声を上手く引き立てている。そんな可愛いながらも落ち着いた雰囲気を持つそのモデルと独特のまったりとした雰囲気が織りなす配信が世界中でも人気を集めているのである。
そんな彼女がデレデレになっているという噂の開発スタッフ。『マヤ』という名前を持つ彼女は、今までに様々なライバーによって語られていたものの一切配信に登場することは無く、色々と謎に包まれたエンジニアとしてこれまでリスナー達の興味を引いていた。らしい。
そんな彼女、いや、私がとうとう配信に出るという内容をほのめかした投稿をアオイがしたことで現在の同接数は既に2万を超え、コメント欄もいつも以上にざわついているようだ。
「やっほー、水瀬だよー」
: やっほー
: やっほー
: あれ、単体か?
: 某エンジニアさん期待
: マヤさん待ち
そんな中アオイがいつも通り挨拶をするも、最初は彼女単体での登場である。そしてそこからの導入に合わせて私が入るという算段だ。まあモデルの初期位置は既にセットしてあるから後は表示をクリックするだけなのだが。
しかし既に私の話は『あんぷろ開発スタッフ、マヤさんについて語るライバー達』という切り抜きが作られるレベルでリスナーに伝わっている為、導入前から既にコメント欄は私が出てくることを待ち侘びている様だ。ちょっと出た時の反応が楽しみだ。
「まあとりあえず時間はまだあるからそう急がないでさあ。とりあえず状況だけ説明させてよ」
: りょーかい
: 社長がやらかしたんだってな
「その通り。社長が会議ダブらせたらしいんだよね。それに関しては配信楽しみにしていた人が居ると思うから本当に申し訳ない」
: 草
: 大丈夫やで
: まあそんな日もあるよな、うん
: それ以上に楽しみが増えたぞ
: アオイは悪くないぞ
: 社長は可愛いから許す
「だからね、急遽皆が配信に出てほしいって待ち望んでいた者を呼び出してきたのだよ」
アオイがそう言うや、一斉にコメント欄が加速し始める。
「さて、それじゃあ入ってきてもらおうかな」
自分のモデルを画面に表示させ、マイクのミュートを外して口を開く。
「皆さんこんばんは。あんぷろ運営開発部門から来ました、マヤと申します。本日はよろしくお願いします」
: ダウナー系お姉さんきちゃああああ
: 声可愛い
: モデルもすげえ可愛い
:いやでも結構落ち着いてるな
: 新人ライバーか?
: これでスタッフってマ?
長めの前髪に隠れた深い青の瞳と整った顔立ちが織りなす柔らかながらも、多少の闇を感じさせる表情。その身に纏う紺色の羽織とメッシュには一部アクセントとしてうっすらと桜色を使い、可愛いながらもダークな雰囲気が漂うキャラクターとなっている。
そんな自作モデルを可愛いと褒めてくれるリスナー達。結構歓迎してくれているようで良かった。
「急に来てもらってありがとうね」
「そうですね。配信15分前にご飯食べようとしてたら急に連絡が来て『配信出てくれない?』ですからね」
「しょうがないじゃん、そんなこと君にしか頼めなかったんだよ」
「言いくるめようとしてません?」
「でもなんだかんだいつも助けてくれてありがと。大好きだぞ♡」
「......反応に困るんですけど」
: 早速照れてて可愛い
: てえてえ
: 絵師です。アオマヤ助かります
: なんだこの子滅茶苦茶可愛いんだが
「だよね。この子めっちゃ可愛いよね。ということで普段私がネタにしているマヤちゃんがライバー実装されました。これからもよろしく」
「これからも......?一応今日だけだと思ってたんですけど」
「末永く、ね♡」
「どうしてくれるんですか、てぇてぇコメしか来なくなっちゃったじゃないですか」
「そういう営業方針で行こう」
「うち二次創作奨励してるの知ってます?もう多分ファンアートはおろか同人誌確定ですよ?」
「三面図貼っておけば?」
「......後で公式SNSにでも貼っておきますよ」
: 同人誌は草
: ちゃんと三面図くれるの優しいな
: やっぱこれからが楽しみだ
: 仲いいなあ
: 可愛いなあ
「まあ細かいところはおいておいてさ、企画進めようよ」
「誰のせいだよ」
「とりあえずそういう訳で今回はね、社長に質問投げずにマヤちゃんに捌いてもらおうと思うんだよ」
「らしいですね」
ちなみに台本こそ送られてきているものの、私が代わりに出ることなんて一切考慮はされていないうえに社長に対する質問内容は全く聞かされていない。つまり即興進行と質問を同時に捌かなければならないのだ。
「ちなみに質問内容は全く伝えてないし台本も役に立たないから完全にぶっつけ本番だね。悪いのは社長だ、私を恨むなよ」
「今度社長の金でご飯行きましょう」
「いいね。それじゃ質問始めるよー」
そう言い、彼女は選んだ質問のフリップを画面に映し始めるのであった。
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