第4話 隠し通路を進もう!

「おーい! こっちだ! 足元に気をつけろよ!」

「は、はい……ひぃ、ひぃ」


 ガボさんにドワーフの国に案内されている僕たちは、ヴェルグ山脈の道なき道を進んでいた。足元は岩肌が露出していて、かなり鋭い。

 もし転びでもしたら膝がずたずたになっちゃうだろう。慎重に進まなきゃ。


「大丈夫ですか殿下? おんぶしましょうか?」

「いや……大丈夫。甘えてばかりいたら強くなれないからね。これくらい自分で行けるよ」


 耳打ちしてくるガーランにそう返す。

 僕の周りには優秀な人が多いからつい頼りがちになっちゃうけど、全部任せたら駄目人間になってしまう。自分でできることは自分でしないとね。


 ちなみにドワーフのガボさんにまだ僕が王子であることは明かしていない。

 僕の父、国王ガウスは評判のいい人物じゃない。色々なところで恨みを買っているはずだ。


 僕がそれの息子だと知ったら悪意を持つドワーフもいるかもしれない。長い付き合いになるなら明かす必要も出るけど、まだそうなるか分からない今は、身分を明かすリスクの方が大きい。


 ガボさんも僕たちの素性を問い詰める気はないみたいだし、しばらくは今のままでいいと思う。


「さ、着いたぞ。ここがドワーフの王国『オルヴァザール』の入り口だ!」

「……ここが、ですか?」


 案内されたのは、なにもない場所だった。

 相変わらず周辺には岩があるだけで、入り口のようなものは見当たらない。


「穴のようなものは見当たりませんけど……」

「ガハハ! そりゃそうだ、隠れ住んでいるのに入り口を晒す馬鹿はおらん! まあ見ておれ」


 ガボさんはそう言うと懐から宝石が嵌め込まれた綺麗な指輪を取り出すと、右手の指にそれを嵌める。

 そして目の前の大きな岩に拳を突き出し、その指輪を押し当てる。

 すると、その岩の表面に青く光る紋章が浮かび上がったと思うと……ゴゴゴ! と大きな音を立てながらその岩がゆっくり横にスライドして、その裏から人が通れるほどの大きなが姿を表す。


「凄い、こんなものがあったなんて……」

「これぞ『ドワーフの隠し道』! この山脈には至るところにドワーフの道が通っている! ま、そのほとんどはワシらが通れるくらいの大きさでお主らは使えんだろうが、この道は鉱石運搬用に広く作られておる。それでもちと狭いが、まあたまに頭をぶつけるくらい許してくれ!」


 笑いながら中に入るガボさんの後ろを、僕たちは追う。

 そして全員が中に入ると再びゴゴゴ……と音が鳴って岩が元の位置に戻る。当然穴の中は暗くなって見えなくなる……かと思ったら、中がほんのり明るくなって先が見えるようになる。


「え、明るくなった」

「はは! 驚いたか? 穴の中にヒカリゴケをしいてあるんじゃ。こいつらは光で虫をおびき寄せ、その死骸や糞を栄養源にする。穴の中で暮らすワシらの貴重な明かりだ」

「へえ……面白いですね」


 緑色に光るコケは足元と天井に植えられていて、穴の中を歩けるくらいに照らしてくれている。光る苔があるのは本で見たことがあるけど、実際に見たのは初めてだ。

 穴の中でどうやって暮らしてるんだろうと思ったけど、こんな物を使ってたんだね。穴の中で火を起こしたら酸素がなくなっちゃうけど、苔を使うならその心配はない、合理的だ。


「さ、行くぞ。足元は舗装されてないから気をつけてくれ」

「は、はい」


 ガボさんの後を僕たちは歩く。

 穴はドワーフ用にしては広いけど、人間からしたらギリギリ通れる広さ。僕やアリスは問題なく通れるけど背の高いガーランには窮屈みたいで時々「あだっ!」と頭を天井にぶつけていた。


 そうしてしばらく歩いていると、先に広い空間が見えてくる。

 そこは通路の中より明るいけど、ヒカリ苔がたくさんあるのかな?


「着いたぞ! ここが我らドワーフの王国『オルヴァザール』だ!」

「わあ、ここが……!」


 通路の先に現れたのは、とても大きな空間だった。

 山脈の中をくり抜いて作られたその空間には、立派な国が作られていた。規模としては王都よりは小さいけど、それでも立派な都市だ。

 建物はどれも石でできていて立派だ。多分山脈を削ってできた石材を使っているんだろうね。都市の中ではたくさんドワーフたちが忙しくなく動き回っている。


「これは凄い。私も色々な都市を見ましたが、これほど珍しいものは見たことがありません。ドワーフの技術力はやはり凄まじいですな」

「がははそうだろうそうだろう! この国はドワーフの技術力の結晶、他に同じものは一つとない芸術品だ!」


 ガーランの称賛にガボさんは嬉しそうにする。

 彼らにとって技術力を褒められることはなによりの称賛みたいだ。


「この都市も凄いけど……あの上にあるものってなに? 凄い魔力を感じるんだけど」


 アリスはドワーフの国の真上を見ながら尋ねる。

 その視線の先にある物は僕も気になっていた。そこには大きく光り輝く「なにか」があった。光っているせいでよく見えないけど、大きななにかが天井に埋め込まれているみたいだ。


 まるで地中に浮かぶ『太陽』だ。

 その明かりのおかげでこの都市は普通に歩けるくらい明るい。緑色の光じゃないからヒカリ苔ではなさそうだけど。


「あれはこの国の太陽にして象徴シンボル、『太陽石へイリオス』だ。一言で言うならバカでかい光る『魔石』だ」

「え、あれ魔石なんですか!?」


 ガボさんの言葉に僕は驚く。

 あの石は遠くから見てもかなり大きい。きっと近くで見たらとんでもない大きさだろう。

 10メートルや20メートルじゃきっときかない大きさだ。そんな大きな魔石見たことない。あのアダマンタートルの魔石でもここまでの大きさじゃなかった。


「うむ、驚くのも当然。あれほどの魔石は長いドワーフの歴史でもあれくらいしか見つかっていない。そしてあれが見つかった時、ドワーフはその下に国を作ると決めたのだ。太陽石へイリオスのおかげでワシらは地中でも地上と同じように生活ができるようになった」

「へえ……そうだったんですね」


 よく見るとこの国には畑もある。

 太陽の届かないこの国で畑ができるのは、きっとあの巨大な魔石のおかげなんだろうね。


「立ち話もなんだ、中に入ろう。そうだ、まずはドワーフの王にお前たちを紹介しよう。国王ドゥルガンは強面だがいい奴だ。きっとお前たちのことも気に入るぞ!」

「はい、よろしくお願いします」


 さっそくドワーフの王に会うことになってしまった。

 緊張するけど、ドワーフたちと関係を築くには避けては通れない道だ。逃げるわけにはいかない。


「安心して下さい殿下。なにが起きようとも私が殿下の盾となります」

「そうよ。私たちがいる限りあんたの安全は保証されてるわ」


 僕の不安を察してか、ガーランとアリスがそう言ってくれる。


「うん……ありがとう。頼りにしてるよ」


 僕は頼もしい仲間たちにそう言って、先を進むガボさんを追いかけるのだった。



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追放された転生王子、『自動製作《オートクラフト》』スキルで領地を爆速で開拓し最強の村を作ってしまう 〜最強クラフトスキルで始める、楽々領地開拓スローライフ〜 熊乃げん骨 @chanken

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