【五周目】

「お願い、この子だけでも助けて。私は後でいいから、早くこの子を」

瓦礫の中で身動きが取れなくなっている親子を見て、ようやく思い出した。

たしかにあの日、俺はこの二つの命を救おうとした。

だが、俺が救えた命は一つだけだった。

俺は多くの命を守ってきたが、それと同じかもしくはそれ以上に守れなかった命もある。

それは仕方の無いことだと自分に言い聞かせ、それでも一つでも多くの命を救おうと努力してきたつもりだ。

瓦礫の中で母親は必死に息子を守ろうとしていた。

しかし、この状況で彼女が息子のために出来ることは何も無い。

なぜなら、彼女は無力だからだ。

彼女の力では息子を守ることはできない。

彼女の力では息子を救うことはできない。

「どうか、どうかこの子だけでも助けてください」

彼女は目を真っ赤にして言った。

ブルーなら機転を利かせて二人を救出できたのだろう。

グリーンなら自分の身を犠牲にしてでも二人を助けただろう。

イエローなら二人の存在にもっと早く気付いて救出していたのだろう。

ピンクなら周囲に協力を求めることで市民達と共に二人を助けたのだろう。

でも、俺は違う。

俺は二人を救うことは出来ない。

それは既に過去がそう証明している。

救える命があれば、救えない命もある。

俺は命の取捨選択をしなければならない。

過去を救って未来を失うのなら、過去を捨てて未来を救う選択だってあるはずだ。

「・・・すまないが、君達二人を救うことは出来ない」

瓦礫の中で身動きが取れなくなっている母親の目を見つめながら、俺は彼女にはっきりと告げた。

「・・・今、何て?」

「悪いが君達を救うことは出来ない」

「何を言っているの?あなたはヒーローでしょ?あなたの仕事は私達を救うことでしょ?助けられないってどういうことよ!」

母親の声には怒りと不安が入り混じっていた。

「・・・俺にだって、救いたい命があるんだ」

その後も母親は、どうか息子だけでも助けて欲しいと何度も叫び続けた。

マンションが完全に崩壊して二人の姿が見えなくなった後も、瓦礫の中から母親の叫び声が聞こえるような気がした。

彼女の悲痛な叫び声が頭にこびりついて離れなかった。

俺は考えることを止めて、その場に立ち尽くしていた。すると近くで救助活動を行っていたブルーがマンションの崩壊する音を聞いて慌てて駆け付けた。

「大きな音がしたけど大丈夫?マンションの住人は全員避難できた?」

久しぶりに彼の顔を見たような気がした。

ようやく全てが終わったんだ。

「安心しろ、全員無事だよ。ビルが崩壊する前に全員助け出したよ」

その日、ヒーローだった俺は二つの命を見殺しにした。

未来の彼を救うために。

未来の俺を救うために。

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No.74【短編】ブルーが殺された 鉄生 裕 @yu_tetuki

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