真実の愛なんていりませんわ!
全ての真実が明らかになり、拘束を解かれたメガラはその場に崩れ落ちた。
「この度はうちの馬鹿娘がとんだ懸想を……本当に申し訳ない」
「いえいえ、これも僕の商売の一環としてのことですから」
アルゲンターヴィス伯はニアに深々と頭を下げていた。
「何よ、みんな私のこと騙してたんじゃない!! それに、お父様もキノも全部私とニアの話を聞いていたってことよね!!?? なんてことなの!!!!」
事の次第を知ったメガラは憤慨した。
「何を言うんだ、そもそも気がつかないお前が悪い」
「どうやって騙されてるなんて気がつくの!?」
「お前、本当に周りを見ていないのだな……後ろを見ろ。そこにいるのは誰だ?」
アルゲンターヴィス伯に促され、メガラはニアの仲間役の男2人の顔をよく見た。
「あなたたちは……えーと……見覚えがあるわね……?」
メガラ以外の全員がため息をついた。顔を覚えられていなかった男2人は悲しげに叫んだ。
「毎朝お庭でご挨拶をしているのですが!」
「この前私のスープがしょっぱいとお嘆きになっていたではありませんか!」
その言葉を聞いて、メガラはようやく自身の過ちに気がついた。
「あなたたち、うちで働いているわね……?」
アルゲンターヴィス家の庭師と調理人はメガラに顔を覚えられていなかったことに衝撃を受けていてた。
「小屋が暗くて気がついていないものだとばかり思っていたのに!」
「最初の日に店で客の振りをしていたのも私たちですよ!」
この計画にアルゲンターヴィス伯爵家の使用人は多く駆り出されていた。夜道での監視や店へ他の客が来ないよう誘導することはもちろん、屋敷内でメガラが突拍子もないことをしても特に気がつかないふりをするなど皆がメガラの失恋計画を知っていた。
敢えて見知っているはずの使用人ばかりを何人も配置することで、メガラにはこの秘め事が既に伯爵家に知れ渡っていることを仄めかしていた。しかしメガラが想定以上に使用人の顔を覚えていなかったことにアルゲンターヴィス伯は驚き、娘の視野の狭さを嘆いた。そこで最後に普段から顔を合わせているはずの使用人2人を暴漢役として配置したが、やはりメガラは気がつかなかった。
「でも、だからって言って、騙していいって話とは違うじゃない!」
世話になっている使用人の顔も覚えようとしなかったメガラにアルゲンターヴィス伯が何かを言おうとしたところを、ニアが制した。
「いいかいメグ」
ニアは改めてメガラに向き合った。
「確かに僕は君が好きだと言った。しかし、本当に僕が人さらいだったらどうするつもりだったんだ?」
「それは……」
メガラは言い淀んだ。
「愛しているなんてその場の言葉よりも、もっと大事なものがあるんだ。それをみんな君に気付いてほしくて、こんなに大がかりなことをやっていたんだ。その気持ちがわかるかい?」
「わからないわよ……」
「例えばキノさんはずっと君のことを心配してくれていたよ。アルゲンターヴィス伯爵も、僕なんかに頭を下げてくれたじゃないか」
ニアの言うとおり、伯爵が平民に頭を下げるなどメガラの想像を超えていた。
「君ならわかるだろう、それがどういうことかを。それだけ、皆が君を心配していた。そんな人たちを置いて、上辺だけの言葉に君は縋るのかい?」
メガラはアルゲンターヴィス伯とニアの顔をそれぞれ見比べた。
「そ、そんなことありませんわ! 私は……」
ニアは真面目な顔になって、きっぱりと言い放った。
「じゃあ、僕と約束してくれ。恋に恋するのは終わりにするって」
「……貴方の頼みなら、断れないじゃない」
メガラは声を詰まらせてニアに応えた。
「よし、いい子だ。さすがアルゲンターヴィス伯爵のお嬢様だ」
「私を誰だと思っているの? アルゲンターヴィス家の女よ。引き際くらい弁えているわ」
泣き崩れるメガラは、ニアの後ろでキノとアルゲンターヴィス伯爵が手を取り合って泣いているのを見た。
「当たり前だ、私の娘が、いい子でないわけないだろう!」
「伯爵様、私の服の裾で涙を拭かないでください!」
自分のことのように泣く父と侍女を見て、メガラは自分が愛されていないわけではないことを実感していた。
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