恋はいつも儚いものなのね

 逃避行の末、森の中の小屋でメガラはニアにきつく抱かれていた。


「ありがとうメグ、本当にここまで来てくれて……よしいいぞ」


 途端に小屋の中が明るくなった。驚いたメガラがそちらを見ると、男が2人ランプを持って立っていた。


「どういうことなの、ニア!」


 男2人はニアからメグを引き離すと、メグを後ろ手に縛り上げた。


「放して! 一体どういうことなの!?」

「どうも何も、お嬢さんは最初から騙されていたのさ」


 男の1人がメガラに告げた。


「そんな、だって、愛してるって、ニア、嘘じゃないよね!!!」

「男はな、愛なんかなくても女は抱けるんだぜ」


 男たちは笑い始めた。メガラは縋るようにニアを見つめる。ニアは肩をふるわせて笑っていた。


「まさか、こんなに簡単に引っかかると思わなかったよ。本当にチョロいな、貴族のお嬢様は」

「何ですって!!???」


 ニアは男に捕まっているメガラの顔を覗き込んだ。


「最初は適当に遊んで捨てようかと思ってたけど、伯爵令嬢な上に俺にマジで惚れてるみたいだからちょっとした小遣い稼ぎでもしようかと思ってね。ここまで簡単についてくるとは思わなかったけど」


 メガラにはその言葉が信じられなかった。


「じゃ、じゃあ! 私を愛してるって言ったのは!!??」

「ああ、愛してるさ。俺は全世界の女を愛してる。その中の1人がお前だったってだけ、何も間違ってないだろう?」

「そんな、嘘でしょう!!」


 メガラは未だにニアに裏切られたことに納得がいかなかった。


「嘘じゃないさ、愛してるぜメグ。俺のために犠牲になってくれて嬉しいよ」


 凍り付くメガラに、ニアは詰め寄った。


「そもそも、お前は俺の何を知ってるっていうんだ?」

「そんな、ニアは優しい、素敵な人よ……?」


 そこでメガラはニアの素性をほとんど知らなかったことを思い出した。ただ「美しい、恋に落ちた」と囁かれただけで、後はメガラが勝手に恋心を膨らませて暴走していただけであった。


「そら、約束の金だ。ご苦労だったな」


 ニアは男の1人から大きな鞄を受け取った。男たちは捕らえたメガラをどうするかの算段を始めた。


「さてこのお嬢様、どうする?」

「アルゲンターヴィス伯爵家から身代金を巻き上げようか」

「いや、それに加えて売り払えば収入は2倍だ」

「その前に俺たちでちょっと……へへへ」


 メガラは男たちから提示される今後のことを聞いて真っ青になった。


「ごめんなさい! 私が馬鹿だったの! 私が間違っていたの!」


 メガラは男たちの腕の中で涙を流し、安易に駆け落ちしたことを後悔した。


「これからは知らない男にちやほやされたからといってホイホイついていったりしないか?」

「そんなこともちろんしないわ!」

「勝手に家を抜け出して、皆に迷惑をかけないか?」

「もちろんかけないわよ……って、お父様!?」


 ニアの後ろに、いつの間にかアルゲンターヴィス伯が立っていた。


「この馬鹿娘が!」


 アルゲンターヴィス伯は泣きじゃくる娘を一喝した。

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