第16話 天弓の彩
天頂高くより、
「
後方に連なるは
「あたしはまだ
「そうかい?無理はしないでおくれよ」
白い歯を見せて、イーリスは笑う。
「寧ろあんた、クスィフォスの処に行ってやらなくてあいのかい?ずっと後方の警護をしていて、不貞腐れていないかい?」
ペオニアの言葉にイーリスは頬を掻く。イーリスたちは
「流石に、大丈夫じゃないか?餓鬼じゃあるまいし」
「ふふ、ついこの間まで子供扱いしていたのに」
「お黙り」
イーリスはペオニアの頬を抓った。ペオニアは愉しげにからからと笑い、周囲の
「何笑ってんだよ」
矢庭に、少年の澄んだ聲が鳴ると、イーリスの背が軽く
「クスィフォス、どうしたんだい」
「後ろの奴がへばってる。一旦休憩にしよう」
「ああ、そういう。わかった。――よし。
イーリスの一喝で、
「……あんた。それずっとそのままにすんの?」
クスィフォスがイーリスにのみ聞こえる忍び聲で云う。イーリスは頭布を手ではためかせながら振り返った。
「ああ、
頭布からは豊かな
「髪色が
「俺はすぐ慣れたぞ」
「
「無色?何者にもなれない?――俺は違うと思うけどね」
クスィフォスは水袋を仰いで喉潤したのち、唇をぺろり、と舌で舐めて湿らせる。その仕草が妙に妖しく、イーリスは一寸どきりとするが、平静を装う。それを見破ってかクスィフォスがイーリスを一瞥した。
「イーリスのその髪は何者にもなれる色だと思うけどな」
「……何者にもなれる?」
イーリスは小さく言葉を零した。するとクスィフォスの手が伸ばされ、イーリスの偽りの宝石の髪を撫でる。愛おしそうに目を細めて。
「ああ。俺にはあらゆる星に掛かる虹のような、そんな色に見えたよ。どんな星より澄んでいて色鮮やかで――綺麗だ」
クスィフォスがイーリスの髪束に口づけする。イーリスは貌を赤くし、視線を反らした。それが愉快に思えたのか、にやにやとクスィフォスは笑い、その貌を覗き込もうとする。
「おい、やめないか」
「いや、可愛くてつい」
「あたしに一番似合わない
「俺には似合うように思えんの」
クスィフォスがからからと笑った。イーリスは
クスィフォスは笑うのを
「まあ、イーリスの好きにするといいさ。気になるなら髪もそのままで構わねえ――それに」
「それに?」
「あんたの本当の髪を俺だけが知ってるってなんか優越感があっていい」
クスィフォスの貌には妖しげな、男の不敵な笑みが浮かべられている。イーリスはふたたびするが心臓がきゅっとするのを感じたが、今度は平静を装う。負けっぱなしは性に合わない。イーリスはその白い少年の額を指で弾いた。
「お黙り、生意気云うんじゃないよ!」
昊に掛かる橋をその髪に有する者。その者は何者にもなれる、ただひとりの民。彼女は
煌星の天弓 花野井あす @asu_hana
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