第15話 共に往く
イーリスとクスィフォスは後方へ
「――追え!」
時を同じくして、
「おい、出口どっちだ」
「このまま抜けた先だ。というかお前は何処から這入ったんだい」
「あ――、五月蝿え!どうせ気絶してたよ!」
イーリスが跳躍し、クスィフォスの後方より忍び寄った白布を蹴り上げる。白布は哀れにも鼻の骨を曲げて崩れ落ちる。イーリスは髪の色を戻したことにより、本来の力を取戻し、より早くより強くなっていた。クスィフォスにはそれが悔しく、己の努力が足りていないのだと思い知らされた。それでも、せめて今、出来る限りの力で隣に立ちたい。無様に捕らえられてイーリスの荷物になるような真似を繰り返したくはない。
クスィフォスが長槍を回して持ち直すと、聲を張り上げた。
「――イーリス!」
イーリスが白服から飛び退くのと同時に背合わせになるようにして立つ。傷が開き、鉄錆が滲み出ていたが、クスィフォスはそれでも明るい聲を出す。
「言っただろう。俺はあんたと共に戦いてえんだ」
「は!?」
イーリスが素っ頓狂な聲を上げつつも白服の槍の一突きを躱す。クスィフォスはその白服の脇腹を深々と槍で抉る。イーリスは困惑顔で大剣を振るいながら、鴉羽に刃を潜ませた少年の方を向く。クスィフォスはあの
「あんたの為ならなんだってやれる。それはあんただからだ」
「何を急に……!それに、それはあたしのことを」
イーリスは大剣で白服の首を刎ね、背を薙ぎ払う。叫喚の中、それでもイーリスは絞り出すように言葉を紡ぐ。
「それはお前が、あたしを知らなかったからだよ……!」
「違う」
クスィフォスがイーリスに詰め寄る、顔と顔が息遣いを感じるほどに近くなる。その
(ああ、これは)
強く美しい、とクスィフォスは思った。まるで
「あんたが、イーリスだからだ。
イーリスは目を見開いた。この奇妙な髪の所為で、何年も
(ああ)
あの日、あの夜。濡烏の少年を見付けたのは己ではないのかもしれない。彼が、己を見出してくれたのかもしれない。何者にもなれない己を、イーリスとしてくれる、己よりうんと年嵩の浅い少年。何も云わず、隣りにあることを日常としてくれる、美しい少年。そして今、眼の前で優しい眼差しを向けて、己と共にありたいと云ってくれる――ひとりの男。
(この子は、こんなにも大人びていたのか)
イーリスはクスィフォスの頬に
「追いついてみな、クスィフォス。共に行くのだろう」
イーリスは
クスィフォスはさらに頬を紅潮させ、笑みを零した。いつもの、クスィフォスの好きなイーリスだ。舌なめずりするよいに唇を滑ると姿勢を整え、駆け出した。イーリスの元へ。イーリスの隣へ。
白と黒の向こうに生い茂る繁みが視える。夜の帳が僅かに開け、瞬く
ふたりは共に
「あんたに相応しい男になって、あんたの隣に立ちたい。だから、待ってろ」
イーリスは目元を和らげ、白い歯を見せて応える。
「やってみな」
夜の帳が上がった。地平より
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