第25話:神隠し


 坂を下りながらどこからか子供の笑い声が響く。きゃー、ははは。楽しそうでなによりだ。

 そこでふと思い出す。「そういえば」俺は切り出した。


「変な噂あるって長浦さんから聞いたんだけど」

「噂? ……あぁ、『神隠し』のこと?」

「神隠し?」

「うん。詳しいことは分からんけど、行方不明になった人がおるみたいな話」

「ここでか」

「うん。でも実際に誰がとかは聞かんから、ほんとただの噂やけどね」


 ふうむ、神隠し。

 そう聞くと学校の怪談的な、都市伝説のようなものを浮かべてしまうな。

 だけど長浦さんの口ぶりはそういう類ではなかったように思う。

 その『変な噂』はケイタくんがいなくなったことをより不安にさせたわけだろう?

 俺の知る限り長浦さんはオカルトやホラーといったものを本気で信じていたという印象はない。

 そんな人がよくある怪談的な話を『変な噂』などと言うだろうか。

 いやまぁ、五年もあれば変わっているかもしれないし、母親的な感情から何もかもが心配材料となるのかもしれないが。


 それにしたって、だ。

 あの流れで出てくる言葉としては、少し違和感が残る。


「気になる?」

「ん? んー、まぁ、ちょっと」

「やったらあたしより理央ちゃんに聞いたがいいかも。接客業やし、噂とかそういうの耳に入るんやない? たまにご近所のママさんたちとお喋りしてたりするし」

「井戸端会議に参加してんのか」

「うん。キキョーでお茶してたりね」

「さすがだな」


 今は気になることは潰していきたい。

 何が繋がるか分からないんだ。情報は無駄なものでも拾っておきたい。


 よし。ひとまずやることが決まった。



 ***



「うまあ!」


 久しぶりの再会(理央さん的には)から数十分、弾んだ会話がひと段落したところで、土産のバナナな菓子をひとつ頬張った理央さんは笑っている。


 俺は会話をしながらずっと思案していた。どういう流れからあの噂話へもっていけばいいかと。

 結局分からないまま時間が経過してしまったのだけど、この間がタイミングかもしれない。俺はなるべく自然に切り出す。


「そういえば理央さん、ここらへんで変な噂あるん知ってます?」

「変な噂?」

「はい。あのー……、なんか、人がいなくなってる的な」

「あー、朱里から聞いたん?」

「えぇまぁ」


 別にこんなの日常会話、だよな。

 なのに何でこんなにも落ち着かない気分になるのか。膝の上で組んだ指をグルグルと遊ばせる。


 一秒、二秒……。理央さんは何を考えているのか少しの時間無言になった。

 テーブルの上に両肘を付くと組んだ指に顎をのせてから、ゆっくり口を開く。


「旅行で来た人がおらんくなったってのが元ネタやな、それ」

「え、まじなんですか」


 驚いているのは俺だけではなかった。朱里もだ。

 俺の隣でおとなしく正座していた体がぴくんと反応している。


「駅の近くにさでっかい森あるん分かる?」


 眉が上下した。まただ、またも森が出た。

 分かります、と頷いて姿勢を正す。


「あそこまで乗せたタクシーの運ちゃんがさ、ここらやと帰り捕まらんよって降りる時に声かけたんやって」

「確かに。あんまタクシー走ってないですもんね、駅まで出らんと」

「うん。そしたらその人、じゃあ二時間後に来てもらえますかーって」

「はい」

「で、運ちゃんが迎えに行ったんやけど、待てども出てこんかった」

「……なるほど。それでいなくなった、と?」

「元の話はな。結局のとこはどうなったんか分からんっちゃけど。でも本当におらんくなったんなら騒ぎになっとるやろ? そういうんはないけん、尾びれついて広まった噂やね」

「……」


 森というワードだけで俺は引っかかるのだけど、でもこういった噂はそれっぽい場所が舞台となるもんだ。神社とか廃墟とかな。

 だから「信憑性ってどれくらいです?」と聞く。

 理央さんは首を捻り「ゼロに限りなく近いな」と言った。

 そりゃ、そうか。

 理央さんの言うように本当にいなくなっているのなら警察やら出てきてもおかしくはないのだ。それがないということは、うん。


 ……うん。いや、でも。

 駄目だ、噂だと切り捨てる気にはなれない。
















――――――――


 お読みいただきありがとうございます。

 今回は少し短めです。すみません。


 衝動的に書いてしまったラブコメを後であげる予定です。

 お時間ある方、良ければ~( ˘ω˘ )


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殺された俺、タイムリープする。~五年ぶりの再会を果たした幼馴染は俺にしか見えていない。どこかにあるらしい本体を見つけ出せ~ なかむらみず @shiratamaaams

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