戦時の判断は迅速に。ただし、第4次世界大戦を待たずとも、今回の戦争の主力兵器は鈍器。

@HasumiChouji

戦時の判断は迅速に。ただし、第4次世界大戦を待たずとも、今回の戦争の主力兵器は鈍器。

「おい、テロリストの残党どもの掃討は、まだ終らないのか? 赤ん坊を絞め殺すより楽な作業に、いつまで手間取るつもりだ?」

 その国では、少し前に、迫害されている少数民族によるテロが発生し、報復として、テロ組織を支持する者達が多い地域が空爆され、続いて陸上戦力が投入され、の勝利宣言が行なわれた。

 だが、イラク戦争・アフガン戦争以降の戦争における新しい「常識」は「勝ってからが泥沼です」「『戦争に勝利してからの方が戦死者が多い』は異常事態ではなく『いつもの事』」であり、この対テロ戦争も例外では無かった。

 テロ組織支持者が多数派を占める地域が国軍に蹂躙され、軍と政府が勝利宣言を出したその日、何故か、当のテロリスト達が国内各地で祝福の花火を打ち上げた。

 いや、打ち上げたと言うのは正確では無い。

 花火は爆発はしたが、あまりに地上スレスレの地点だったので、多くの死者が出てしまった。まぁ、お祭り騷ぎには死傷者が出るのが当り前なので、仕方有るまい。この手の馬鹿なお祭り騒ぎの基準からしても、いささか以上に多い死傷者数だったが。

「おそれながら、国防長官。そもそもテロリスト達の本拠地の掃討作戦に問題が有ったかと……」

「おい、この対テロ戦争の勝者は我々だぞ。我々が勝ったのに、作戦に問題が有ったとは、お前は一体全体、何を言ってるんだ?」

「でも……勝利と言われましても……テロリスト達は活動を続けていますが……」

「だから、その残党どもを掃討しろと言ってるだろうが。まぁ、いい。聴くだけは聴いてやろう。お前は、何が問題だっと言いたいんだ?」

「え……えっと……。何故、?」

「そりゃ、相手の本拠地を壊滅させる事が出来れば、戦争は終る。はい、論破だ」

「い……いや……それは……正規軍が相手の場合で……今回の敵はテロリストですが……。どちらかと言えば、対ゲリラ戦に近い考えをすべきかと……」

「だまれ。我々は戦争に勝ったんだぞ。あとは残党の掃討と、こちら側の敗北主義者の粛清だ。おい、そもそも、テロ組織に潜り込ませてたウチの潜入捜査官モグラどもは、何で、テロリストどもが一斉蜂起する事を事前に掴めなかったんだ?」

「その点の釈明は本人達に行なわせます。今、こちらに向っている筈です」

「いつ着く?」

「はい、もう、この国防省の建物内に居る筈です」

「俺が直々に大ポカをしやがった理由を問い詰める。ここへ呼べ」

「では、こちらのIDの者達に、このフロアへの入室許可をお願いします」

「わかった……ん?」

 その時、国防長官の机の上の内線電話が鳴り出した。

「どうした?」

『あの……テロリストどもの本拠地で、とんでもないモノが発見されました』

「何がだ?」

『死体です』

「そりゃ、掃討作戦をやったんだから、死体も出るだろうよ」

『そ……それが……テロリストどもに人質にされていた民間人などのテロリストとも地元の人間とも……無関係な人々の死体が多数……』

「ああ、なるほど。憎むべきテロリストどもに殺された訳か。不謹慎だが本当に良かった。これで今回の対テロ戦争の正当性は……」

『違います……我が軍がテロリストやその支持者と誤認して……テロリストに人質にされていた民間人を殺したんです』

「そっか。些細な問題だ。テロリストが殺した事にしろ」

『あと……

「何だって? 何をもって、モグラが殺されたと判断した?」

『IDカード等は見付かっていませんが……歯の治療の記録やDNAや万が一に備えて肌に入れていた刺青タトゥーなどから……』

「おい、待て、じゃあ、ここに向かってる『モグラ』は一体全体、何者だ?」


 その日、その国の国防長官は、テロ組織に潜入させていた国軍側のスパイのIDカードを利用して国防省に侵入したテロリストによりされた。

 凶器が金属探知機などで発見出来なかったのは……その凶器がだった為と見られている。

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