第6話お金

僕んちは貧乏だった。

兼業農家で家計は火の車。

僕は目が悪くて、母にメガネを買って欲しいと言うと、困った顔をして1万円のメガネを買うために、旅館に米俵3俵売って、15000円にした。

その時の母は、旅館の人に頭を下げながら、普通は1表8000円の米だが、足元を見られ5000円にしかならなかった。

両親は僕が、大学に進むようにといつも言っていた。

僕は、部活のキャプテンをしながらも、毎晩2時まで勉強して、大学に進んだが、両親は大学がどれだけお金が要るのか知らなかった。

奨学金をもらって、大学の学生ローンを借りたが、親はそれを生活費に当てた。

僕は、前期まで講義に参加したが、その前にアルバイトばかりして、1年の冬に自主退学した。

母が子宮がんになったからだ。


子供は親を選べない。

僕は息子に何をしてやれるだろうか?

僕は父親が母親、子供に酒を飲んでは暴力を振るってた事を恨んでいる。

だから、人の顔色を見るような人間になったのだ。

良く言えば機転の聞く人間、悪く言えば小心者。

だから、僕と弟は絶対に嫁さん子供に暴力は振るわない事、酔っ払って管を巻くことをしないと誓い、今の家族関係になっている。

お金は、お陰様で何とか生活して飲んでも貯金出来る程度で、嫁さんが大黒柱になっているので、気は引けるが子供にはお金の心配させない位はある。

そもそも、僕だって嫁さんにお金を渡している。

母親は、未だに農家時代の借金を返済している。

今月も、貸さないといけないだろう。

だが、僕は忘れていない。

メガネを作るために、米を売っている姿を。

母親は、いつか美味しい刺し身を食べられる旅館に行きたいと言う。

僕は貯金して、2月に伊勢志摩に旅行を考えている。

せめてもの恩返しだ。

だが、大学は卒業したかった。25年経つが未だに大学時代の夢を見る。

もう、通信で大学なんかにお金を掛ける歳ではない。

2月の旅行を楽しみにしている。

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