第26話 エピローグ:最後の晩餐

 このインド大統領の「人工男根」装着の説得に成功して、わずか、一週間後の事である。



 湯川から、緊急の呼び出しがあった。絶対に、極秘の話だから、電話もメールも不可能だと言う。



 私と、丁度一緒に金沢市に帰郷していた妻の優子を連れて、北陸新幹線で、例のホテルのVIPルームに、急遽、向かったのだった。



 しかし、この緊急の呼び出しは、絶対に可笑しい。あの冷静な湯川が、これほど、取り乱しているとは、ただ事では無い筈だ。電話すら駄目だと言った。

 この私が受けた通知は、履歴の残らないテレグラムの一種だったから、尚更、だったのだ。



 で、例のVIPルームに、今までの全員の顔ぶれが揃った。



 この私、妻の優子、湯川、湯川の恋人の森田愛、そして、西山須美子もだ。



 開口一番、湯川は、トンデモ無い事を言い出し始めたのだ。



「田上よ。聞いて驚くなよ。



 「アカシック・レコード計画」の第二ステージ作戦は、どうも、根底からヒックリ返るかも知れないのだ!!!」



「まあまあ、一体、何があったのだ。湯川よ、よく落ち着いて話ししろよな」



「田上よ、そうそう落ち着いてはとてもいられないのだ。

 結局、それがだ。

 あの計画の後ろに、超大物がいる話をしたろう……それが、どうも、世界中にバレたらしいのだよ……」



「一体、何処の誰がバラしたのだ。CIAの職員か、それともFBIの誰かなのか?」



「いや、既に、CIAもFBIも、全て、推進派で固められている。そこから、漏れる事は絶対に無い。ただ、ある国の諜報機関が、極秘で調べあげたのだ」



「イギリスのMI6か?……しかし、イギリスは、「アカシック・レコード計画」賛成派の国だった筈だが」



「それが、違うのだよ。宗教的にも、歴史的にも、世界で最もややこしい国、イスラエルの諜報機関のモサドが関与していると聞いているのだ。



 それだけでは無い。既に、この情報は、イスラエルのイヤミダス大統領にも伝えられている」



「でも、イスラエルは、アメリカとは仲が良かった筈だが……」



「いや、今回だけは、そう言う訳には、いかないらしいのだ。



 これこそは、ローマカトリック教会の世界征服運動の一つの活動だと勝手に解釈し、あれほど仲の悪かった、中東のイスラム国家の指導者達にも、モサドを通じて、極秘に連絡してしまったそうなのだ。



 田上よ。最近のニュースを見て、変には、思わなかったか?



 何と、わずかこの、一週間で、イスラム国家の指導者の内、「人口男根」装着者が、既に、5人も、病気や事故で相次いで亡くなっているだ。



 ここに気が付いた、CIA職員が、イギリスのMI6と、共同で緊急調査した結果なのだ。



 既に、イスラム国家の指導者の中には、「これは現代の十字軍の再来だ!!!」と叫んでいる国もある。イラン、シリア、イラク等等だ。



 この問題は、宗教的にも歴史的にも実に複雑な背景があるため、『黙示録の会』の創設者でもある、あの二人の天才は、事故死を装ってまで地に潜ったのだったが、ほんのわずかの綻びから、トンデモ無い事に、発展していきそうなのだ」



「とんでも無い事とは?」



「あのイスラエルのイヤミダス大統領は、ある種の狂人らしい。



 で、この「アカシック・レコード計画」のバックに、ローマカトリック教会の教皇がいる事を、イスラム国家どころか、ロシア、中国、北朝鮮の三国にも、極秘で、連絡済みだと聞いている。



 これを聞いて、例えば、極秘で核兵器を有しているイランは、バチカン市国に向かって、核ミサイル発射の直前の準備までしていると言うのだ」



「じゃ、アメリカは、それを迎撃できないのか?」



「それが、ロシアから買ったばかりの極超音速ミサイルで最高速度マッハ20のため、イージス艦や、パック3、その他のいかなる迎撃ミサイルでも、撃墜は不可能らしいのだ。



 なので、アメリカのCIA長官や、現職のアメリカ大統領のドルトン・ジョーカー大統領等の一家は、既に、地下奥深いシェルターに避難済みだと言う。



 現在、テレビのニュースで、流れているアメリカ大統領の姿は、AIによる、人工作成の物だと言う。



 つまり、イランが、バチカン市国に核ミサイルを発射したが最後、第三次世界大戦は、必然的に勃発する。



 せめて、第二ステージが完全に完了していれば、超大型量子コンピュータ『666(ビースト)』のAIを強制作動して、この事態の収拾は、図れたのだがなあ……。



 ああ、だがほんの少し、遅かったようだ、結局、間に合わなかったのだ!」



「それじゃ、イランの核施設を無差別空爆したらどうなんだ」



「それが、核施設と、核ミサイルの、場所は、全く不明なのだ。



 百歩譲って、万一、それに成功してもだ。



 今度は、あの狂ったイスラエル大統領のイヤミダス大統領が、同様の行為を行う準備に入っていると聞く。バチカン市国への、核攻撃をだ。



 もはや誰にも止めようが無い。



 田上よ、これが、俺達の今までの努力の結果だったとは、実に、情け無い話だよなあ……」



「湯川よ。じゃ、聞いてみるが、イランかイスラエルかロシアかは、ハッキリしないが、一体、いつ、その核ミサイルは、発射されるのだ?」



 ここで、湯川の瞳から、一粒の涙が流れた。



「田上よ。そ、そ、それをここで言ったら、この豪華な夕食が不味くなるが、それでもいいのか?」



「ああ、この私は死ぬ事は、全く怖く無い、異常な神経をしているらしい。新種の離人症とさえ言われているから、何の問題も無いんだよ。



 湯川よ、勿体ぶらずに言えよ!」



「だったら、ハッキリと言わせてもらうよ。



 日本時間、今日の午後9時キッカリだ、と聞いている」と、またしても、湯川の顔が半泣き状態になった。



「結局、何とかして第三次世界大戦を防ぐ目的で頑張って来た、この私らの行為は、では、全くの、無駄だったのかなあ……」と、私が、ポツリと言った。



「田上よ。これこそが、もしかしたら、恐竜が一瞬で滅びた時のように、人類全体のDNAに、人類が誕生した時以前から、すり込まれたいた必然的な運命なのかもしれないなあ……」



 湯川の、半泣きの顔を見て、私は、言うべき言葉を持たなかった。



 ただ、

「湯川よ。良く分かったよ。あと数時間、この「最後の晩餐」を、東京の夜景を見ながら、味見し、堪能しようではないか」



「そう。そう言う事なら、私もこの「最後の晩餐」を、心から味わって食べるわ」と、妻の、優子も、頷いた。



 全員が、ほぼ、半泣き状態で、テーブル上の、豪華な洋食は、少しづつ減って行ったのである。



 あと、数時間後の世界の惨憺たる惨状を、皆、思いながら……。

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レベル10!!!史上、最高最大の変態的奇書ここに有り。 立花 優 @ivchan1202

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