華麗にして陰惨なる殺戮絵巻

明治と昭和の間にたった十五年間だけ存在した大正時代。古きものと新しきものが混在した時代は、しかし関東大震災によって灰塵に帰し、その上にさらなる近代化の波が押し寄せて来ます。
その時代の片隅にぽつんと取り残されたような、平家の落人伝説が残る因習深き村で次々と起こる連続殺人・・・と聞けば、たいていの読者はあの名作ミステリー『八ツ墓村』を否応なく思い出すでしょう。

本作『十三塚村』はその『八ツ墓村』をあえて下敷きにしたと分かる形を取りながら、時代の狭間にある古きものと新しきものの葛藤とその陰影を、より色濃く描くことに努めている印象を受けました。
近代化の申し子たる「探偵」がその卓越した推理力で謎を暴くとき、表面は上手く近代化の波に乗りつつあった村に隠された、底しれぬ闇が露わになって行きます。
それはある種の悪魔祓いにも似て、古からの不合理な闇が、近代的な理性の光によって払拭されたかに見えますが、しかしそれだけで終わらない・・・というよりそれでもなお残る人間の業の深さこそが、この作品の眼目であるように思えました。

その物語の中心軸がしっかりしているからこそ、拡散された謎が解決に向かって収斂していく様は、非常にテンポ良くスピーディーで心地よいほどでした。特に中盤以降の展開は、まさに「殺戮絵巻」と言いたくなるような陰惨さと華麗さで、読み進めるごとにワクワクしてまったく飽きさせません。
冬の夜長の読書に最適のミステリーだとお勧めします。