十三塚ノ村

山岸マロニィ

応募用あらすじ(完結までのネタバレです)

 関東大震災の翌年。

 華族の次男坊で、探偵の真似事をしている土御門保憲の元にふたつの依頼が舞い込んだ。

 ひとつは、群馬の奥地・老仏温泉を襲った土石流から発見された十五人分の白骨の正体を探って欲しい件。

 もうひとつは、老仏温泉の上流にある十三塚村の実業家・半清嗣の遺言にある、相続人とされる写真の男を探して欲しい件。

 どちらも十三塚村に秘密があると推察した保憲は、文芸誌記者・蘆屋いすゞと共に現地に向かう。

 十三塚村は平家の落人を始祖とする閉鎖的な集落。地震に続く台風による崖崩れで、村の守り神の十三塚が消失していた。

 その翌日、当の半清嗣が遺体で発見される。

 彼の通夜の晩。弔問に訪れた村の老婆「きよめの婆」が宣う。

「村の主たる六家より一人ずつ生贄を出し、六ツ塚を建てねばならない」

 そして、その言葉通りに村人たちが殺されていく。


 半家の清嗣を初めとし、

 下沼家のおぬい(きよめの婆)

 川上家のとし子

 田中家の友吉

 東馬家の佳衣――


 そこで、佳衣の父・雄二が暴露する。

 五十年前、村を訪れた旅の一座を皆殺しした上、人数合わせにおぬいの娘のおいよを殺した事を。

 彼は、一連の事件は娘を失ったおぬいの無念を引き継いだ曾孫の熊造の犯行と断言、警察の制止を押し切り村人を引き連れ熊造の家へ押し掛ける。

 そこで、熊造は自害する。

 彼の死により六ツ塚は完成し、事件は終わったかに見えた。

 だが翌朝、半清嗣の長男・滋が、一連の事件の犯人だと自白した遺書を残し首を吊っているのが発見される。

 そこへ現れた、十五の白骨を見立てた医学博士・大骨が、滋は他殺だと看破。

 ところが、東馬雄二の一件から拳銃所持を禁じられた捜査陣の士気は低下、捜査の進まないまま、十三塚のある十三塚神社の宮司・西晴光が飛び降り自殺、東馬雄二も毒殺され、十三塚の祟りは続いていると村人たちは恐れ慄く。

 そんな中、田中家の勝太郎が帰郷。正義感の強い彼は、関東軍の特務機関に所属する実力を以て、十三塚再建のための人柱を立てる決意をする。

 その後、川上とし子の父である惣八が半滋の息子・太輔を刺殺し自首。

 そして、勝太郎が警官の一人を殺害し逃走。

 捜査陣の不満は爆発し、捜査の指揮を執る百々目警部補に反旗を翻す。

 警官たちが村人を監視する中、勝太郎は村の出身ではない半家の女中・千代を殺そうとするが、許嫁の川上とし子の面影を千代の中に見て断念、逮捕される。

 満身創痍の捜査陣に対し、五十年前、旅芸人一座の皆殺しを煽った長老・東馬仁兵衛が再び村人たちを扇動する。

「村の英雄である勝太郎を助けなければならない」

 村人たちは暴動を起こし、捜査本部を襲う。

 そこへ、保憲の兄で帝国議員の忠行が手を回した群馬県警の一団と、なぜか村を訪れた陸軍の騎馬小隊が到着。暴徒は全員逮捕された。

 だが騎馬小隊との取引で、田中勝太郎の身柄を渡す事となる。


 こうして事件は終結した。

 そして、土御門保憲により事件の全容が明かされる。


 事の発端は五十年前の旅芸人一座皆殺し。

 先代・半清輔の息子・清一が、一座の娘・おゆきを手に入れるため、一座を盗賊だと偽り自警団に惨殺させたのだ。だが、清一がおゆきを匿っており一人足りないため、自警団はおいよで数合わせをした。

 その後、清一の指示で遺体を十三塚に隠した。

 それを知った清輔は激怒、清一を殺す。

 清輔は全てを清嗣に託して自害。清一の遺体もまた十三塚に隠された。

 一方、東京へ逃げたおゆきは男児を出産、清悦と名付ける(写真の男)。

 成長した清悦を残しおゆきは病死。清悦は結婚し千代が生まれる。

 だが、清悦が日露戦争に出征中に母を病で失った千代は吉原に売られてしまう。

 復員後、千代を取り戻したい一心で清悦は十三塚村を訪れ、清嗣に金の無心をする。ところが怪しんだ清嗣の次男・半聡に撲殺され、半滋に十三塚に埋められた。


 これが、十五の白骨の真相である。


 それから二十年後。

 無能な兄が財産を相続するのは許せないと、聡が父・清嗣に直談判したところ、清嗣は殺人の反省を見せない息子の罪の責を負って自害。

 清嗣の死を他殺とみた警察が息子兄弟を疑ってきたために、聡は一計を案じる。

 川上村長と田中常勝に、きよめの婆の言葉通り「六ツ塚」を建てるよう洗脳、それぞれ二人ずつ殺させたのだ。

 動機を遺産相続でなく「十三塚の祟り」に見せかけ、疑惑を逸らすための殺人だったが、惣八、勝太郎が暴走。

 聡の思惑の外でも次々と殺人が起こり、太輔までもが殺される事態に、共犯であり大輔の母・馨子は絶望、最終的な相続人である千代の目の前で服毒自殺をした。

 更に東馬仁兵衛の病死で「十三塚」が完成し、事件は決着した。


 ……その三十年後。

 再び村を訪れた、この物語の筆者である「私」は疑惑を持つ。

 一連の事件は、千代に禍根なく財産を譲るための清嗣の計画であり、土御門保憲はそれに加担したのではないか。

 真相は既に藪の中。為す術ない私は愕然と、十三塚のあった崖を眺めるしかなかった。

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