第3話
私と馴染みは、正式に騎士と認められて良い年頃と成ったが、其の位を授かるにはヘザー侯爵直々の許しを要する。侯領の都へ発つ事を二週後に控えた時になって、私は意を決し主に談判した。僧職に
私は嬢にも馴染みの男へも告げる事をせず、無論見送りを受ける事もなく、単身隣国の地を踏んだ。逃亡以外の何ものでもない。温暖なウェリア島の教会を訪ね、私は修道の誓いを立てた。何とも上辺ばかりの口上である。私の中には、リーンの教に対する憎悪の情があった。罪悪が如何にも敬虔な様子で神聖を侵しに遣って来たのである。しかし、司祭にして団長で在る男は、私と云う罪悪の権化に何の疑いを持つ事もなく受容れた。其の時私の抱いた思いと云えば、感謝などではなく、果たして此の司祭というリーン教に於いて上級なる者には、善なる者と悪しき者を見分ける事も出来ぬらしいと、
ウェリアは文化的な島であり、名声は未だ無くとも類稀なる技巧と感性を持ち得る肖像画家が居り、私は其処へ往って只創作の様子を見て習い、館に戻っては借りた空き部屋を画材の臭気で満たしながら、何かと描いていた。或る晩遅く迄そうしていた私は、自室として与えられた場所への道程を手持ちのランプを頼りに歩いていた。一つの部屋に差し掛かった時である。明確に男のものと判ぜられる卑しい嬌声が聞こえたのだ。初め聞き紛うたのだと思ったが、しかし私の足は自然其の部屋の扉へと近付いて、無意識に鋭敏さを増した聴覚で様子を窺った。果たして、確かに扉一つ隔てた場所で、男同士が性愛を交わし合っていたのである。其の部屋の主はアウリー人であった。アウリーの教義に於いて同性愛は罪とはされない。しかし此処はリーンの修道会である。恐らく元々アウリーの文化の中で育った者にとっては、リーン教に於いては罪とされる其の事柄に対しての意識が薄弱なのやも知れぬが、とは云え。私は目眩を起こしながら、其の部屋から離れた。自室に戻って眠らねば為らない。一刻も早く眠り忘れねば為らないと思った。
私は馴染みの男と抱き合っていた。衣服を纏わず、互いに全てを曝け出していた。肉体は繋がり一つと成って、彼は幸福の笑みを浮かべ私を見詰め、私の心も
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