第2話
閑話であるが、此処で私の罪を一度告白する。私は馴染みの男を好いていた。その好意が友人へ向けられるものであったのも、半ば程は左様である。しかしながら、其れとは異なる感情を抱き生きて来た事に、丁度此の時期、曖昧ながらにも自覚しつつあった。彼は
十七に成った時、主は私に申された。「娘と結婚し、私の跡取りと成っては呉れまいか」と。嬢と私が睦まじくしている様子を主は長らくご覧になって来られたのであろうが、私は馴染みの方が余程主の後継者として相応しかろうと思った。しかし、主も良く思案した事とあっては、私には「はい」と答える以外にない。処で嬢の気持ちは果たして。ファーリーンに於いて、特に上流の家柄に属する女性に相手を選ぶ権利と云うものは殆ど無きに等しい。しかし、前にも述べた様に主は娘御を大層愛して居られたので、生涯を共にするのならばどちらの男が良いかと尋ねたそうである。つまり、嬢が選んだのは私と云う事だ。確かに、私は嬢に好意を抱いてはいた。しかし、それは純然たる友愛の情である。彼女と過ごす時間、彼女との談笑は私を和ませるのだから、共に長く過ごせるのであれば其れも良かろうと思いながらも、私は激しい虚しさに襲われた。其の晩、私は独り泣いた。月が満ちている日であった。アルビオンの光は私の心の中
其の翌日の事である。晩を通して泣き腫らした私の目を見て、馴染みの男はどうしたのかと案じて呉れた。だが、当然ながら私は真実を教えはしなかった。何と答えたものか、何か適当な理由を答えた様に思う。
嬢との婚約を発表する場は、村落の酒場と相為った。私が農民の生れであって、其処には父母が居り、亦もはや記憶に薄いとは云え幼き頃の知人友人等も居た。主は
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