第19話 教育に悪い
研究所へと戻って来た直人たち。
椅子に座って直人がぼんやりとしていると、さわさわと耳を触られた。
隣を見るとネモが手を伸ばしていた。イタズラが成功した子供のように、にへらと笑う。
「えへへぇ。直人の耳は丸いね!」
「まぁ、エルフじゃないからな」
エルフを見たネモは不安そうにしていたが、落ち着いてきたらしい。
にこにこと笑うネモは、いつもと同じように緩い雰囲気だ。
「ちょっと、縄をほどいて欲しいんですけど!?」
研究所の奥から声が響いてきた。
「……どうやら、お客様がお目覚めのようだ」
「気を付けてね……」
「大丈夫だから、任せておけ」
直人は研究所の奥に進む。
翼が落ちていた場所で見つけた傷だらけのエルフ。
直人たちは彼女を回収して治療を施ししていた。
奥の扉を開く。
そこは研究所の休憩室のようになっている場所だ。
倉庫遺跡から持ってて来たソファーを設置しているため、意外と居心地は良い。
中に居たのは例の金髪エルフ。後ろに回された手はロープで縛ってある。
捕縛して監禁しているのだから当たり前だが、エルフは直人に敵対的。
直人を睨みつけていたが、耳元を見ると目を見開いた。
「もしかして、人間?」
「その通りだ」
「まさか、生き残りが居たなんて……」
どうやら、直人を古代文明の生き残りと勘違いしているようだ。
だが直人に訂正をする気はない。
素性の分からない相手に、無用な情報を渡す必要は無い。
「あんた、名前は?」
「『レティア・トゥリー』よ。人間さんは?」
「……直人だ」
「そう、直人さんね」
エルフはにこりと微笑む。
直人の懐柔を図っているのだろうか。
「直人さん。この縄をほどいて貰えないかしら?」
「ダメだ。コボルトたちが怖がるから、レティアを自由にするわけにはいかない」
「……コボルト?」
レティアが部屋のドアを見た。
ドアの向こうから、ひょっこりとネモが顔を覗かせていた。
直人が心配らしい。
なんだが、主人が風呂に入っているのを除く猫みたいだ。
「エルフはコボルトたちに『酷いこと』をしたり『さらったり』すると聞いてる」
「そう、ね。そういうことをする奴らも居るでしょうね」
「……どうして、そんなことをするんだ?」
「……私たちエルフにとって、コボルトは家畜なの」
レティアは少し言い辛そうにしながら口を開いた。
「体は頑丈、体力もあって病気になり辛い。繁殖力も低くない。それでいて非力で臆病だから数を増やしても反乱の危険がない。とても都合のいい労働力。あるいは奴隷と言っても的確ね」
レティアの話は、直人としては気分のいい話ではない。
レムリアに来てからしばらく経つが、コボルトたちとはうまく協力して過ごしてきている。
仲間として信頼を持っている。
そんな仲間たちが、家畜だ奴隷だと言われるのは気分が悪い。
「だから、コボルトたちに『酷いこと』や『誘拐』したりするのか?」
「エルフの中には『コボルトには何をしても良い』と考えるゲス共も居るから、『酷いこと』はただのストレス発散でしょうね」
「……誘拐は違うのか?」
「誘拐したのは、どこかに売るためじゃないかしら。空島産のコボルトは特に頑丈で高く売れるらしいわ」
予想はしていた話だが、誘拐されたコボルトたちは売られていたらしい。
「話しぶりからすると、自分は関係ないと言いたげだな?」
「事実として関係ないわよ。私は古代文明の研究のために空島に来ていただけ、コボルトを捕まえるために来てない……だから、この縄をほどいてくれないかしら?」
「無理だな。信用しきれない」
「それじゃあ……こういうのはどうかしら?」
レティアはソファーに寝転ぶと、直人を誘うように体をしならせた。
男を誘う女のようだ。
しかし、その顔は真っ赤に染まっている。無理しているのが一目で分かった。
「自由にしてくれたら、『良いこと』してあげるんだけど?」
「……そうだな」
カツカツと直人が歩み寄る。
ジッと無言でレティアを睨みつけていた。
今さら怖くなったのだろうか、レティアは目を潤ませると、ギュッと目をつむった。頬を涙が伝る。
直人はレティアに向かって手を伸ばし――ぺちん!
レティアのおでこにデコピンを食らわせた。
「痛っ!? な、なにするのよ⁉」
「何をするはこっちのセリフだ。教育に悪いから、二度とするな」
直人は親指で部屋のドアを指す。
変わらずに部屋の外から覗いていたネモ。
ふわふわの手を口に当てて『あわわー!?』と焦ったように直人たちを見詰めていた。
俺だけ浮遊大陸に行けるようになったので、モフモフ獣人たちと開拓配信を始めます こがれ @kogare771
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