第18話 エルフ

「なおとー。昨日の夜ね。向こうに火の玉が落ちてったんだよ?」

「……火の玉?」


 直人がいつものようにレムリアの研究所に向かうと、一人のコボルトが話しかけてきた。

 島の向こうを指さして、火の玉がどうのとお喋りしている。


「うん。ぶおぉぉぉって落ちてったの!」

「そうかぁ……なんだろうな。オズは分かるか?」

「音の比喩がジェットエンジンに似ています。もしかすると、何らかの飛行物体が墜落したのかもしれません」

「え、もしかして、どこかの国の戦闘機とかか?」


 レムリアの周辺には、ちょこちょこ小型の飛行物体が飛んでいる。

 どこかの国が飛ばしている偵察機なのだろう。

 もしかすると、それが落ちてきたのかもしれない。


「いえ、バリア内に侵入する可能性は無視できるほどに低いです。レムリア内部で墜落したのでしょう」

「……もしかして、飛行するゴーレムとかかな? だとしたらパーツが欲しいよなぁ」


 ハヤテにはスラスターが付けられて、空中制御が可能になった。

 しかし、飛行能力を手に入れたわけでは無い。

 今後のレムリア探索を考えるならば、飛行能力は必須。

 飛行できるゴーレムが手に入るのならば回収しておきたいものだ。


「とりあえず、見に行ってみるか」

「かしこまりました」


 その後、直人たちはハヤテに乗り込んだ。

 ネモも『一緒に行きたい』と言うので相乗りだ。

 ハヤテで走ること数十分。

 直人たちは薄っすらと黒い煙を上げている金属の塊を発見した。


「お、なんだアレ。飛行機に似てるけど……だいぶ小っちゃいな?」

「あ、アレはエルフが使ってる羽だよ? アレを掴んでエルフたちは空を飛んでるんだぁ」


 どうやら、エルフの道具らしい。

 古代の道具やゴーレムとは違うもののようだ。


「噂のエルフの物か……だけど、周りに邪魔者が居るなぁ」


 翼の周りには、ぎゃあぎゃあと鳥のモンスターが飛び回っていた。

 直人を襲って、ムベンベ様に捕食されていたのと同種だ。

 直人としてはあの時の恐怖もあって少しトラウマ。

 しかし、今回はハヤテが居る。あの程度は簡単に蹴散らせるだろう。


「よし、雪辱戦だ。ハヤテ、頼んだぞ!」

「PIPOPAPA」


 ハヤテの目がピコピコと光った。

 やる気を出してくれているのだろうか。


「いっけー!」


 ネモの緩い掛け声と共に、ハヤテが動き出す。

 鳥はハヤテに気づくと、空に飛び上がった。しかし、その瞳に逃走の意思はない。直人たちを狙うように鋭い目をしていた。

 空からこちらの隙をうかがうつもりだろう。


「させるかよ!」


 がっしゃん!

 勢いよく跳びあがるハヤテ。さらにスラスターを噴かせて鳥に急接近。

 足を伸ばして飛び蹴りを食らわせた。


「ぎゃう!?」


 地に落ちた鳥モンスター。

 飛べない鳥に抵抗するすべは無い。

 ハヤテの機関銃を頭蓋に打ち込むと、ぱたりと動かなくなった。


「これで翼を調べられるな」

「わーい!」


 ハヤテに乗りながら、エルフの翼に近づく直人たち。

 がさり!

 それを遮るように、近くの岩陰から草をかき分ける音が響いた。


 まだモンスターが居たのか。

 身構える直人たちだが、岩陰から出てきたのはモンスターでは無かった。

 

「触らないで」


 出てきたのは金髪の美人さん。尖った耳が特徴的だ。

 しかし、その美しさはくすんでいた。

 金色の髪や緑の服は煤や泥で汚れている。おまけに体のあちこちが傷だらけ。

 まるで遭難一か月目のような姿だ。


「それは、私の――」


 ばたり。

 話している途中で倒れてしまった。

 どうやら気絶したらしい。


「え、えるふだ……」


 ネモが怯えたように金髪美人を見た。

 どうやら直人と違って、本物のエルフ様らしい。 

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