第114話 最強の騎士だよ

 重厚な扉を開くと、そこには広々とした部屋があった。

 大理石の床の上を真っ赤な絨毯が伸びており、その先に数段の段差を挟んで立派な玉座が鎮座されている。

 そして……そこに座ってふんぞり返っている白髪の老人の姿。


 シングー帝国皇帝、ベグ・シングー。

 大陸有数の大国の頂点に君臨しているその男は、やってきたヴァンに慌てる様子も無く、若い女を横に侍らせて足を組んでいる。

 逃げる時間くらいあっただろうに、その必要はないとばかりに余裕の態度だった。


「ほほう……まさか、ここまでたどり着くとは思わなかったのう。ネズミにしてはやるではないか」


 皇帝が嘲笑うように顔のシワを深めて、ヴァンに言葉を投げかけてくる。


「名乗るが良い。その身の程を知らぬ不遜さに免じて、名くらいは覚えておいてやろう」


「ヴァン・アーレングス」


「ヴァン……アーレングス。そうか、アイドラン王国を滅ぼして建国したという国がそんな名前だったな。貴様がその国王というわけか。まさか国王自ら敵地の真ん中に飛び込んでくるとは……なるほど、なるほど。ただ運良く王になったわけではないようじゃな」


「ヤンッ」


 言いながら、皇帝が横に侍った女の身体を撫で回す。

 女が場違いにも甘えるような声を上げる。


「ワシを殺すつもりで来たのかもしれぬが……残念じゃが、そこまでじゃよ。『六皇剣』のうち五人を討ち取ったとしても、まだ最強の矛にして盾が残っておる。『六皇剣』の最高峰に君臨する男……『至尊剣鬼』のカーマインがな!」


「…………!」


 ヴァンがその場を飛び退いた。

 次の瞬間、玉座のすぐ前に天井から一人の男が降ってきた。

 ドシンと音を立てて着地したのは、深紅の鎧兜に身を包んだフルアーマーの騎士である。

 兜の目元に開いた穴から、緑色の眼光がヴァンを見据えている。

 フルアーマーの騎士……カーマインは両手に身の丈ほどの大剣を手にしており、ガチャリと金属音を鳴らしながら切っ先をヴァンに向けてくる。


「これは……驚いた」


 ヴァンは瞬時に悟った。

 強い……これまでに戦ってきた数多の強敵が蟻の子に見えるほど、目の前の騎士は強い。

 それが言葉を交わさずとも、空気で理解することができる。


「そういうことか……納得した」


 ヴァンは神妙な顔つきで頷いた。

『六皇剣』は六人で国を滅ぼせるほどの戦闘能力を有していると聞いていたが、これまで戦った五人にそれほどの実力があるとは思えなかった。

 強いて言えば、最後に出てきたマーサの結界には目を見張るものがあるというくらいである。

 だが……目の前の男を見て、理解した。

 この男であれば、たった一人で国を滅亡させられるかもしれない。

 それだけのオーラを、一騎当千にして無双の力を、にじみ出る覇気で感じ取ることができた。


「クハハハハハハハハハハハハッ! 後悔していることだろう、我が玉座までやってきたことを、不遜にも帝国に刃を向けたことを! 愚かなる下等国の王よ、我が最強の騎士の剣にかかって息絶えるが良い!」


「…………フンッ!」


「フハハハハハハハハッ! ハハハハハハハハハハハハハハハ……………………は?」


 傲然として笑う皇帝であったが……すぐに、その笑顔が唖然とした顔になる。


 皇帝の視線の先……そこにいる最強の騎士の様子がおかしい。彼の胸に何かが刺さっている。


「あ……」


 ヴァンの手にあった大剣がない。そして、ヴァンは何かを投擲した後のようなポーズを取っている。

 そして、気がついた。

 最強の騎士であるカーマインの胸に刺さり、鎧を貫通して背中まで貫いているのが、ヴァンが持っていた大剣であることに。


「当たったな……逆にビックリだよ」


 ヴァンもまた、皇帝ほどではないが驚きの表情になっている。

 ヴァンが投げた大剣……愛用の武器が、カーマインの身体の真ん中を真っすぐに貫いていたのであった。






――――――――――

限定近況ノートに続きのエピソードを投稿しています。

よろしければ、読んでみてください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月30日 18:00
2024年12月3日 18:00
2024年12月7日 18:00

妹ちゃんの言うとおりにしていたら覇王になっちゃったけど、どうしよう? レオナールD @dontokoifuta0605

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ