Short&Short ~一話完結短編集~

一服庵 愚梟

第1話 To Heaven

前略


その後、お元気にしておられますでしょうか。

私は相変わらず

平凡な毎日を送っています。



あの日の帰り道

あなたは突然、真剣な顔つきで

「人はどうして、泣きながら生まれるのかな」

なんて、云いましたっけ。


答えに詰まって白黒する私に

「買い忘れたモノがあるから」

部屋の鍵と、笑顔とを残して

あなたは去っていきましたよね。


私は一人、あなたの部屋に戻ると

鏡に向かって

あなたを迎える練習をしながら待っていました。


けど


あなたが戻ることは、なかったのです―



連絡を聞いてかけつけた

私の目に飛び込んできたのは


あなたの

冷たくなった大きな手の中の

小さな包み


そして

見慣れた柔らかい筆跡―


「21回目の君が生まれた日に

心からおめでとう!!」


私は

どんな言葉より

どんな贈り物より

あなたに、そばにいてほしかったのに…



あれからしばらくは

どうやって生活してたのか、よく覚えてません。

長らくの親友が訪ねてきて

何か励ましてくれたことは覚えてますが

私はうつろだったみたいです。


今となっては、笑っちゃいますよね。



うん。

私は、もう大丈夫です。


私とあなたとは

確かに愛し合っていましたし

それは今も

同じことだって分かったから。



「人はどうして、泣きながら生まれるのかな」

あの日のあなたの問いかけですね。


私の答えは

今もまだ出てはいません。


でも

少なくとも

悲しみのせいではないと思うんです。


少なくとも


そう

私たちの子供は


そうだと思っています―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Short&Short ~一話完結短編集~ 一服庵 愚梟 @ippukuan_gukyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画