あいおえん。
山田 百舌:名誉猫又₍⸍⸌̣ʷ̣̫⸍̣⸌
序
独白
小説の行間を読む行為は、空気を読むという行為よりかは遥かに容易い。
沈黙を重ねる文字列は語る口を持たずとも意外と雄弁であり、数多に存在する語群から選出された語彙には、必ずそれが選ばれるだけの意味がある。そこに著者の意図は乗り、あるいは訳者の知識が透けて見える。
文字と密に接すれば
必要なのは膨大な知識と積み重ねた経験。実にシンプル。つまりは───
そんな知識・経験・努力のいずれもがまったく通用しないのが、空気を読むという行為であった。
話題の選出を誤った瞬間に温度の急落が待っている。だから、神経を
なおざりで居ることもおざなり対応も機嫌を損ねる。だから、自然に口から出た
折角の提案や自分の意見が通らないことを酷く嫌う。だから、食べたくもない物を「食え」と、観たくもない映画を「観ろ」と、居心地の悪い空間に「居ろ」と命じられたら喜んで従う。それは
だが、この涙ぐましい努力を
死にたいと思わない日はなかったが、自ら命を断ちたいとも思わなかった。自死する気概がないといえばそうだし、すぐそばにいる、自分より少しだけ小さな背丈のぬくいせいぶつを手放すだけの勇気がなかったのもまた理由として挙げられる。
そうして
どれほど体験という名の経験を積めども、
なにかひとつでも間違えれば首元に突き付けられた刃が勢いよく横に
───昨日は踏んでも平気だったのに、今日も同じところを踏んだら爆発しました。なんていうのがザラにある、管理のザルな地雷。不発弾が爆発したとかではない。昨日まではそこに地雷など埋まってなかったのだ。だというのに、翌日には新調したての爆発物が埋め込まれているのだからどうしようもない。初見殺しが過ぎる。
実際、そうして
懸念材料をいくら潰してみせたところで、箸が転がっただけで笑うどころか爆発するような地雷相手に
底なし沼に嵌まったわけだった。
魂の〝核〟と称すべき人格までもを炭化水素原子をヒドロキシ基で置換した有機化合物質に侵蝕させるような人間をやめたバケモノに、やれ知識だ、やれ経験だ、やれ努力だなどと綺麗事を説いたところで
まァ、そんなだから、どうしたって苦手意識が抜けない。
アルコール中毒者を相手に空気を読むという行為は顔色を窺い続けることと同義である。
そう身を以って知った頃には、顔色を窺うことに長けてはいたが、空気を読むという行為がよくわからなくなっていた。
いつだって漂う空気には濃度を上げた怒気と膨れ上がった
もし仮に、これこそが空気を読むという行為だというならば───こんなに苦しいことは、きっとない。ソッと息を潜めるドブネズミ。糸で
それはきっと、あいつも同じだろう。───なァ?
あいおえん。 山田 百舌:名誉猫又₍⸍⸌̣ʷ̣̫⸍̣⸌ @mo2_
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