学校の陰

@penta1223

学校の陰

町外れの小さな学校に、新しい先生がやってきた。彼の名前は佐藤先生。30代半ばで、若々しい瞳には熱意が宿っていた。彼が赴任したこの学校には、特別な伝説があった。それは、「毎年、新しく赴任した先生の中で一人は、その年のうちに退職する」というものだった。


佐藤先生は初日、他の先生たちとの歓迎会の席で、その伝説を耳にした。笑い話の一つとして、軽く流されることが多かったが、数年前からその伝説は現実となり、新しい先生たちは次々と学校を去っていった。


伝説の理由は、古い校舎の一階、廊下の最奥にある特別教室だと言われていた。そこは長らく使用されておらず、鍵がかけられていた。中には何があるのか、誰も知らない。


ある日、佐藤先生が廊下を歩いていると、特別教室の前で一人の女生徒と出くわした。彼女は、教室のドアに手をかけていた。名前を呼びかけると、彼女は驚いたように佐藤先生を見つめた。彼女の名前は杏子。成績優秀で、控えめな性格の女の子だった。


「なぜここに?」佐藤先生が問うと、杏子はしばらくの沈黙の後、小さな声で答えた。「私、ここが気になって…。」


佐藤先生は優しく笑い、「気になるのはわかるけれど、授業が始まるから教室へ戻って」と言った。


ある晩、佐藤先生は資料整理のために学校に残っていた。夜の学校は静かで、廊下の足音だけが響く。そんな中、佐藤先生は廊下の最奥、特別教室の前で立ち止まった。何となくドアの方へ手を伸ばし、鍵を回してみた。すると、鍵はスムーズに開いた。


特別教室の中は暗く、窓のカーテンが閉ざされていた。とりあえず、電気をつけると、中は普通の教室と変わらない風景が広がっていた。ただ一つ、教室の中央に大きな黒板があった。その黒板には、何か文字が書かれている。


佐藤先生は近づき、文字を確認すると、そこには「あなたは次です」という言葉が書かれていた。


驚いた佐藤先生は、急いで教室を出た。そして、次の日、佐藤先生はその事を他の先生たちに伝えたが、みんなはただ驚くばかりだった。


佐藤先生が特別教室の話をしたその日の夜、彼は自宅で夢を見た。夢の中で、彼は特別教室の中に立っていた。そして、教室の扉が閉まり、誰かの足音が聞こえてきた。足音は徐々に近づき、佐藤先生の背後から何かをささやく声がした。「次はあなたの番…」


目を覚ました佐藤先生は、汗でびっしょりだった。


翌日、学校に行くと、他の先生たちから驚くべき情報が伝えられた。それは、数年前にこの学校で働いていたある先生が、特別教室で亡くなったというものだった。


佐藤先生は、その事実と自分が見た夢の関連を感じ、特別教室の真相を探ることを決意するのだった。

佐藤先生は、亡くなった先生のことをもっと知るため、学校の古い記録や教師たちとの会話を通して、真相を探り始めた。


亡くなった先生の名前は、柳田先生。彼は数年前、佐藤先生と同じようにこの学校に新しく赴任してきた。彼もまた、特別教室の伝説を知っていたらしく、何度かその前で立ち止まっていたという話を、同僚の先生たちから聞いた。


ある日、佐藤先生は図書室で古い新聞記事を発見する。それは数年前のもので、柳田先生が亡くなった事件に関するものだった。記事には「先生、教室で自ら命を絶つ」と書かれていた。さらに詳しく読むと、事件の背後には彼が抱えていた心の闇や、学校での人間関係のもつれが関係していることが伺えた。


翌日、佐藤先生は杏子に会い、柳田先生について尋ねた。杏子は当時、小学生で、彼の授業を受けていた一人だった。彼女は慎重に言葉を選びながら話し始めた。


「柳田先生は、とても優しい先生でした。でも、いつもどこか寂しそうで、特別教室の前を通るたびに、何かを考え込んでいました。」


佐藤先生は杏子に、特別教室の中に入ったことがあるのかを尋ねると、彼女は少し動揺した様子で答えた。


「一度だけ、中に入ったことがあります。それは柳田先生が亡くなる前の日のことでした。」


杏子の話によると、彼女はある日、放課後に特別教室の前で柳田先生と出会った。彼は鍵を持っていて、杏子に「君もこの中を見てみたいか?」と誘った。


二人は特別教室の中に入った。柳田先生はしばらく無言で黒板を見つめていた。黒板には「次はあなたの番」という文字が書かれていた。


「それを見た瞬間、柳田先生の顔色が変わりました。彼は、急いで教室を出て行ってしまい、その後のことは…」


杏子の言葉は途切れた。彼女は深く息を吸い、涙をこらえながら続けた。


「その夜、私は悪夢を見ました。夢の中で、柳田先生が特別教室で何者かに追い詰められていました。その何者かの顔は見えませんでしたが、不気味な声で「あなたは次だ」と繰り返し言っていました。」


佐藤先生は、杏子の話から、特別教室が柳田先生の死と何らかの形で関わっていることを強く感じた。しかし、その背後に隠された真実は何なのか。


学校内での調査を続ける中、佐藤先生はある日、校長室で古い日誌を発見する。それは、この学校の初代校長が書いたものだった。


日誌には、特別教室の建設に関する記述があり、そこにはある秘密が書かれていた。それは、特別教室の地下に、旧日本軍の遺物が埋められているというものだった。

日誌の情報に導かれ、佐藤先生は特別教室の地下を調査することに決めた。校内での許可を得て、彼は学校の維持係の男性と共に、特別教室の床を掘り始めた。数時間後、彼らはコンクリートの下に何か硬い物にぶつかった。それは、鉄製の扉だった。


扉を開けると、狭い階段が続いており、その先には小さな部屋が広がっていた。部屋の中には、旧日本軍の遺物や古びた文書が保管されていた。


佐藤先生はその文書を一つずつ読み進めると、戦時中にこの学校が、ある重要な役割を果たしていたことが明らかになった。それは、特別な情報を伝えるための隠れ家として利用されていたのだ。そして、その情報は、一部の軍人だけが知る秘密の暗号として記されていた。


しかし、最も衝撃的だったのは、その部屋の隅にあった古びた日記だった。日記の持ち主は、戦時中にこの学校で教鞭を取っていた先生だった。彼の名前は「柳田」と書かれていた。その日記には、彼がこの秘密の場所を利用して、特別な情報を隠し持っていたこと、そして戦後、彼がその情報を持って行方をくらましたことが記されていた。


佐藤先生は驚愕した。柳田先生という名前、それは数年前に特別教室で亡くなった先生の名前と同じだった。彼は、もしかしたらその先祖が戦時中のこの場所に関わっていたのかもしれないと考えた。


そして、特別教室の黒板に書かれていた「あなたは次です」という言葉。それは、柳田先生が自らの運命や家族の過去に気づき、その重圧に耐えきれずに自ら命を絶ったのかもしれないと、佐藤先生は推測した。


彼は杏子にこの発見を伝えた。杏子は涙を流しながら言った。「柳田先生は、その過去の重荷に悩まされていたのですね。」


佐藤先生は、柳田先生の遺族にこの事実を伝えることを決意した。そして、学校の関係者や生徒たちと共に、特別教室を供養の場とし、柳田先生のために祈りを捧げた。


その後、特別教室は改装され、歴史教室として利用されることになった。戦時中の遺物や文書は、学校の歴史として展示されることになった。


佐藤先生は、この事件をきっかけに、人の心の闇や過去の重荷について深く考えるようになった。そして、彼は生徒たちに、自分の過去や家族の歴史を受け入れ、それを乗り越える力を持つことの大切さを教えていくことを誓った。


学校の陰は、悲しい過去を持つ場所ではあったが、それを乗り越えて新しい未来を築く力を、佐藤先生や生徒たちに教えてくれたのだった。

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