それに出会ってしまえば、もう今までと同じ人生は歩めない

引っ越したら隣の部屋に推しが住んでいた!
妄想が現実になったようなシチュエーション。しかし、この作品が描くのは推しとの夢に満ちたキラキラライフではありません。
主人公の花緒は、幼い頃にある被害に遭い、心に傷を負っています。それは自分にとっての人生というもの・世界の見え方感じ方というものを決定的に変え、今までと同じようには生きられなくするものでした。

繊細な心理描写により、様々な登場人物との交流や、ゆるやかに変化する関係、そして、花緒というひとりの人間の人生が丁寧に描かれます。
彼女の過去・現在・過程。どうしてそう感じたのか、どうしてそう形作られたのか。
実生活ではあまり触れる機会のないような、心の深部にまでじっと眼差しを向けた描写により、彼女の受けた傷や、抱えている苦しみが明らかになります。

作者様の洞察は花緒以外の登場人物にも及んでいます。
たとえ読者が登場人物たちとピッタリ同じ境遇でなくても、痛みを共有できるところ、ハッとさせられるところ等に出会える。そう思います。

重いものを取り扱っていますが、読んでいて重い、暗い、辛い、となることはありませんでした。光や優しさもありますし、1話ずつが短いので息継ぎも出来ます。
文章や表現も非常に綺麗で、この澄んだ美しさが私は本当に好きです。

世界が変わる出会いというのは、誰にでもあるものなのだと思います。それは小さい大きい、浅い深い、色々で、向かう先は絶望であったり希望であったりするのだと思います。
文字で描かれているもの、深くに表現されているもの、物語に流れる雰囲気。
そういったものを感じながら、じっくりと読んでいただきたい作品です。

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