ふつうの推しでも許せますか

愛衣

回想1

回想1-1

 ぱしゃ、と無機質なシャッター音が響いた。びっくりして振り返ると、スーツ姿の刑事さんが部屋のあちこちを撮影している。


 わたしはなんだか落ち着かなくなった。


 まるで初めて入る場所みたい。部屋中あちこちの引き出しがひっくり返されて空っぽになっているし、いろんなものがなくなっている。パソコンも、カメラも、段ボールも。


 窓の外でパトカーの真っ赤なランプが点滅するのを見ていたら、目が痛くなった。


花緒かおちゃん」


 女性に呼ばれて振り向く。刑事さんはしゃがみこんでわたしと目線を合わせると、ゆったりとした口調で質問した。


「花緒ちゃんが写真を撮ったのは、この部屋で間違いないんだよね?」

「うん」

「その時に着ていた服がこれ?」


 お気に入りの白いワンピースが床に広げられた写真だ。わたしはもう一度頷く。


「じゃあ今度は花緒ちゃんが写真を撮ったとき、どこに、どんな格好でいたか教えてくれる?」


 言われるがままにあの日のことを思い出す。


「最初はここに座ってたの。だけど暑くなって、日陰に行きたいって言ったらお兄さんが、服を……」


 ふいに見上げた刑事さんの目つきがひどく険しくて、途中で言葉が途切れた。


「それで?」

「……そしたら今度は、写真じゃなくてビデオを撮りたいって……」


 刑事さんが険しい顔つきでメモ帳にペンを走らせる。


 なんだかすごく嫌な感じだ。ひどく不安で、泣き出したいような気持ちになる。

 テレビで見たときから、ずっと怖くてたまらなかった。お母さんはなにも答えてくれないし、お父さんはずっと怒ってる。だけどこのひとたちなら、ぜんぶ知ってるのかな。


 わたしは深呼吸をして、ずっと胸につっかえていた疑問を吐き出した。


「お兄さんは悪いひとなの?」


 部屋の入口で見守っていたお母さんが突然泣き崩れた。その肩を男性の刑事さんが支えている。そんなふたりを見てわたしはようやく思い出す。


 わたしは恥ずかしいことをされたんだ。





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