幼いころ、とある事件の被害者となり心にトラウマを負った女性「花緒」。
唯一の心の支えは2.5次元俳優である推しの存在。
だが彼は引退してしまった。
退職し、地元に帰ってきた花緒は普通のアパートで一人暮らしを始める。
だが隣の部屋の住人こそ、引退宣言をして一般人に戻った元「推し」であった――
隣の家に推しが住んでいるというと、
一見ご都合主義のラブコメを思い浮かべるかもしれませんが、全く違います。
心に傷を負った者同士、他人の視線に対して過剰に反応しながら、
少しずつ距離を縮めていきます。
描かれるのは恋愛ではなく再生の物語かもしれません。
傷ついた者同士の邂逅はヒリヒリとした心理戦にも似て、
少しでもバランスを崩したらたちまち壊れてしまう砂上の楼閣のようにはかなく、
手に汗握って読んでしまいます。
繊細な登場人物たちが心の琴線に訴えかけてくる小説です。
しっかり向き合って読んでください。
引っ越したら隣の部屋に推しが住んでいた!
妄想が現実になったようなシチュエーション。しかし、この作品が描くのは推しとの夢に満ちたキラキラライフではありません。
主人公の花緒は、幼い頃にある被害に遭い、心に傷を負っています。それは自分にとっての人生というもの・世界の見え方感じ方というものを決定的に変え、今までと同じようには生きられなくするものでした。
繊細な心理描写により、様々な登場人物との交流や、ゆるやかに変化する関係、そして、花緒というひとりの人間の人生が丁寧に描かれます。
彼女の過去・現在・過程。どうしてそう感じたのか、どうしてそう形作られたのか。
実生活ではあまり触れる機会のないような、心の深部にまでじっと眼差しを向けた描写により、彼女の受けた傷や、抱えている苦しみが明らかになります。
作者様の洞察は花緒以外の登場人物にも及んでいます。
たとえ読者が登場人物たちとピッタリ同じ境遇でなくても、痛みを共有できるところ、ハッとさせられるところ等に出会える。そう思います。
重いものを取り扱っていますが、読んでいて重い、暗い、辛い、となることはありませんでした。光や優しさもありますし、1話ずつが短いので息継ぎも出来ます。
文章や表現も非常に綺麗で、この澄んだ美しさが私は本当に好きです。
世界が変わる出会いというのは、誰にでもあるものなのだと思います。それは小さい大きい、浅い深い、色々で、向かう先は絶望であったり希望であったりするのだと思います。
文字で描かれているもの、深くに表現されているもの、物語に流れる雰囲気。
そういったものを感じながら、じっくりと読んでいただきたい作品です。
表現が思い浮かぶんだろう、というのが読み始めて最初に思った印象でした!
1章を読み終えて区切りが良いためのレビュー投稿となります!
詩的な表現と言っていいのかわかりませんが、言葉で読み手を惹きこむという感覚を覚える素敵であり怖い作品でした!
とても丁寧・・・繊細と言ってもよい導入から始まるのですが、用意されている話の締めの言葉、捻り出したのではなく自然と息をはくように語られた言葉で一気に物語に意識をもっていかれました。
言葉の選択が素敵な物語なのですが、その言葉に惹きつけられる分、『重い』展開の胸の締め付け具合も比例しているので注意が必要ということだけは伝えておきたいです!
また、全体的に物語として静かな印象を受けるのは、上記の通り場面ではなく物語に集中しているからなんだな、と納得もできます!
読んでいてリズムが良い、というのはこのような作品なのだと教えてもらっているようです。
それは些細な表現の切れ端でもどのような状況で。どのような心境で。を咀嚼せずに理解できるような描き方、ひいては作者様の筆力の高さの表れではないかと・・・!
個人的に余白の多い〇〇などの表現は普段何気ない中で見ているけど、意識してない部分にも関わらず一発で伝わってくるような扱い方に静かに1人感心してしまっていました・・・
物語の内部は下手に私の言葉で綴ってしまうとこれから読む方の妨げ、およびネタバレを含んでしまいそうなので・・・ですが、情緒溢れる表現だからこそ、不意に現れる直球表現が不純物なしで胸に突き刺さってきました!
ちょっと着地点がよめないのですが、前向きな形を思わず望んでしまう物語。
静かな夜にじっくりと読むことをおすすめします!