第10話 決闘 ~美人オペレーターと、“トランプカード”~

『ヤア、面白おもしろソウナ、ことヲ、シテイルネ。 ぼくモ、ゼテ、もらッテ、イイカナ?』


 “首輪付き”の若者による、民間施設への非人道的な攻撃は、未然に阻止された。

 謎の“機動兵器”に、全てのミサイルを、撃ち落されたのだ。


 “反乱軍”の無線に割り込んできた、声の主は、特殊な加工が、施されていて、聞き取りづらい。


ぼくト、あそボウヨ?』


 二足歩行兵器としては、通常の機体のようだが、底知れぬ威圧感を感じるのだ。


 激しい『怒り』と、深い『失望』を。



 いいだろう。

 だが、もう、“遊び”は、終わりだッ。


「後退ッ!後退だッ! 旧市街の、外縁部まで、至急、後退せよッ!」


 “首輪付き”の若者は、一緒に“入団試験”を受けている新兵達に、指示をする。

 若者自身の機体も、“ブースト”全開で、別方向に移動する。


「……なにっ! 後は、任せた!」

「こいつは、ヤバそうなやつだねッ!退散するよッ」


 レーダー反応が、急速に遠ざかるのを感じる。

 素直な新兵達だ。

 好感が持てる。


 こいつの狙いは、俺だ。

 足手まといは、少ない方がいい。

 

 

 敵増援が、来る前に決着をつける。


 まずは、“スキャン”だっ!

 慎重に、“識別”しろッ!


 相手のIFF反応は、“味方”つまり、“反乱軍”所属だ。

 カラーリングも、トランプの♦ダイヤのマークが、肩にあるだけで、普通。


 機体構成は、さっきまでいた新兵共と、同じ。

 2世代前の旧式機だ。

 違うのは、両手の武装のみ。

 

 相手の機体は、軽量よりの中型機だ。

 右手武装は、高速連射式のレーザーライフル。

 左手武装は、ブレードだ。

 右肩は、安価なミサイルポッド。

 左肩は、ただのレーダーだ。


 特徴のない、凡庸な機体だ。

 勝てる、勝てるハズの相手だ。


 旧世代の“機動兵器”に、優れた“強化人間”である俺が、負けるわけがない。



『サア、“試験しけん”ヲ、再開さいかいシヨウカ?』

 

 よし!

 手数で、勝負だ。


 先手必勝、俺は、灰色の機体の、右肩に装備した、ミサイルを放つ。

 だが、ミサイルの描く機動は、通常のトップアタックの機動だけでない。


 機体を小刻みに動かし、ミサイルコンテナの発射角度に強弱をつけて打ち込む。


 回避予想地点には、アサルトライフルを、連射し続ける。

 相手の動きは、ひたすら、弾幕を張って妨害する。

 

 3方向以上からの、ミサイルの十字砲火だ。

 どうだ、回避しきれまい。


 

 ドドドドッ!!


 ダメだ、また空中で、撃ち落された。

 ミサイルの機動を、らされた。


 こいつ、“ジャマー”機能持ちだ!


 電子妨害により、ミサイルが、正確な目標に、たどり着かず、爆発するわけだ。

 まさか、反乱軍に、これほどまでに、高度な技術力があるとはな。


 爆風が近そうな、至近弾は、レーザーライフルか、ミサイルで撃ち落している。

 まったく、大した腕だな。


 だが、ミサイル装弾数は、お前の装備より、はるかに多いぞ?

 いつまで、回避できるかな?


 ミサイルの爆炎が、相手の機体の周囲を包み続ける。


 ほうら、お前には、こっちが見えてない!

 その機体、オートロックを、あえて、切ってるだろ?


 ダイヤの機体は、レーザーライフルを爆炎に斉射するが、当たらない。


 爆炎の影、近い距離から、灰色の機体が姿が、ちらつく。



 俺の機体は、量産機だ。

 しかし、それでも、比較的新しい世代のマシンだ。

 

 特徴は、圧倒的な超加速、つまり、“ブースト”時間が、非常に長いことだ。

 しかも、強化人間の俺は、高速により発生する、パイロットにかかる負荷“G”のダメージに対して、高い耐性がある。


 機体の向きや進む方向を、空中で切り返しながら、相手の死角に急接近できるのだ。



 襲撃者の後方、爆炎の中から、灰色の機体が、スッと姿を現し、銃を構える。


 “首輪付き”の若者は、至近距離から、アサルトライフルの弾を叩きこむ。


 チぃ、避けたかっ! 


 相手の右手武装に、銃弾が命中し、敵機は銃を捨てた。

 青い火花を散らした後、銃が爆発する。


 よし、さっきから、連射してきて厄介な、エネルギーライフルを潰した。


 あとは、遠距離戦闘だ。


 手堅く、引き撃ちで、仕留めるだけだ。




 しばらくして、お互いミサイルを打ち尽くした、ようだ。

 連続で当てなければ、姿勢制御を狂わせるほどの、決定打には、ならない。

 

 しつこく背後を狙いあうのも、飽きてきたところだ。

 

 このままでは、やはり、最後は、“接近戦”になるか?

 さて、どうしてやろうか。

 


 灰色の機体は、広大な空き地の中心部で、足を止めた。


 “来いよ。”とでも、言うように、灰色の巨人が、手招きする。

 

 挑発に乗るかな?



 ……来たっ! 


 敵機も、高機動を控え、慎重に空き地に、入ってくる。

 罠がないか、慎重にスキャンしているのが、わかる。


 俺は、外部に聞こえる拡声器で、名乗りを上げる。


「俺は、元“レッド・ショルダーズ”所属だ。」


 どうだ、ビビったか?


「ヘエ。アノ、うわさニ、名高なだかイ、皆殺みなごろシノ、特殊部隊。」


 相手の機体からも、反応がある。


「ドウシテ、コンナ、ところニ、ルノカナ?」


「俺は脱走兵だ。

 さっき、持ち逃げした金を、奪われてしまってな。

 反乱軍以外、他に、行くところも、稼げるあても、ないんだ。」


「フフッ、ソレハ、わることヲ、シタナァ。」


 ♦の機体のパイロットは、可笑おかしそうに笑った。

 少し、機嫌が良くなった様子だ。


「僕ハ、“トランプカード”ノ、ダイヤ♦の7。」

「“もと国軍こくぐんノ、きみナラ、分カル、デショ」


 53人の賞金首。

 “国軍”は、反乱軍の幹部を、“トランプカード”の絵柄に、なぞらえていた。

 兵士達に、賞金首たちの、顔と名前を、覚えさせるためだ。


 ダイヤ♦の7は、科学部門のトップだった、はずだ。

 確か、危険な生物、化学兵器を、研究している悪党だ。

 名前は、確か……。


「コードネーム:“アミール”か、いいだろう。その首、もらい受ける。」


 俺は、左手のブレードを相手に向けた。


 こいつを、ヤれば、俺は一生、遊んで暮らせる。


 衛星砲の照準器を、持っていれば、すぐに、片が付くんだが。

  

 !!

 

 ダイヤの機体が、肩武装をパージし、ブレード一本で、突っ込んでくる。

 

 間抜けめっ!


 俺は、超加速を後ろ向きにかけつつ、急速上昇する。

 ハチの巣に、してくれるわっ!

 

 不意に、空中にいる灰色の機体が飛んだ場所目掛けて、黄色の光の刃が襲う。


 避ける場所を予測して、光刃ブレードを、最大火力で、放ってきたのだ。


 無駄ァ!!

 

 灰色の機体も、ブレードを出し、二本の光刃が、つばり合う。 


 両者ともに、両手が塞がっているように見えるが……。

 

 ……終わりだな。

 防がれた時点で、お前の負けだ。


 至近距離から、ミサイルランチャーとアサルトライフルを叩きこむ。

 

 ……避けたっ!

 後ろかぁ!

 

 再び距離をとり、振り向き様に、全弾を、発射する。

 広場で止まった俺が、弾切れだと、思ったか?


 引き撃ち、最高ぉ!


 

 っ!!!

 

 強い衝撃があった。

 機体の姿勢制御が、揺らぐのを感じる。

 

 どう……して……。

 敵は、打ち尽くし、切り離したハズ……。


 複数のミサイルが着弾し、灰色の機体の姿勢が、手足を伸ばしたように固まる。


 敵のジャミング、妨害だけでなく、相手ミサイルの弾道操作も、できるのか……。 



 次の瞬間、光刃ブレードの光が、灰色の機体を貫いていた。


 

 墜落した俺の視界には、俺のアサルトライフルを構えて、上から見下ろす敵機の姿があった。


 肩のダイヤマークが、返り血のように、赤く輝いていた。


 引き金にかかった、巨大な指が、ゆっくり引かれるのを、俺は黙って見続けた。




 外の拡声器と、俺の首の通信装置から、同じ声が響く。



貴方あなたノ、ケデスネ。」

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【二足歩行】反乱軍に潜入したパイロットの俺が、ハニトラに引っかかって、二重スパイになった件について。ロボットの生体部品パーツに、されたくないので戦闘を頑張ります。(あぁ~早く転職してぇ。)【機動兵器】 読んで頂けたら、うれしいです! @KEROKERORI

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