憑依 ー 復讐の蒼い炎 松岡編3 ー

 「死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない……」


 松岡の叫び声が、念仏のように響いている。


 何の罪もない女性達を、己の性欲処理の道具として散々弄んだ報いだ。


 松岡の悲鳴をどれだけ聞いても、僕の心には全く響かなかった。


 そういえば、最後に日笠千鶴ひかさちずるが松岡にかけた白い液体。あれは初めて見る薬品だったな……。


 「……あれはうるしの樹液です」


 僕の問いかけに答えるように、日笠千鶴ひかさちずるがうるしの説明を始める。


 「うるしかぶれの症状は、うるしに触れた皮膚にブツブツと発疹ができ、かゆみをともなって赤く腫れ上がります」

 

 「このかぶれは、うるしに含まれる「ウルシオール」という物質に対してのアレルギーで、うるしに触れてから発疹が出始めるまでに、2日から3日かかります」


 「ウルシかぶれは、2週間程度で自然治癒しますが……症状がピークを迎える頃には、が全身を襲います」


 ハンモックに寝転んだ日笠千鶴ひかさちずるは、楽しそうにユラユラ揺れている。


 「運が良ければ、うるしかぶれは発症しません。松岡さんは一体どちら側でしょう。かぶれるのか……かぶれないのか……答え合わせが楽しみです」


 ジジジ……ジジジ……画像が切り替わる。


 …………


 ー 松岡 監禁3日目 ー


 「おはようございます。松岡さん」


 松岡の身体には火傷をした時のような水ぶくれが身体中にできており。その水ぶくれを虫たちが食いちぎり。


 血を水で薄めたようなピンク色の汁が、身体のいたる所から滴っている。


 この水ぶくれは、重度のが発症した時の症状である。


 それを見た日笠千鶴ひかさちずるは、嬉しそうに微笑む。


 「助けて下さい……体中が痒くて気が狂いそうです……」


 3日間。虫と全身の痒みに襲われて、ほとんど眠れていないのだろう、松岡は憔悴した感じだ。


 「あらあら松岡さん。元気がないですね~。そろそろ私も……次のおもちゃが欲しくなってきましたぁぁぁ」


 「ま、待って下さい。命だけは……助けて下さい……お願いします。お願いします。お願いします」


 日笠千鶴ひかさちずるの言葉から微かな殺意を敏感に感じとった松岡は、地面に頭を擦り付け必死に懇願する。


 「松岡さんは、いまだに私が誰か分かっていませんし、それはちょっと難しい相談ですね」


 「待って下さい……チャンス……チャンスを下さい。お願いします」命がけで食い下がる松岡。


 「チャンスですか……そうですねぇ……」


 「何でもやります。お願いします。お願いします」


 「ん~分かりました。ひとつ私とゲームをしましょう!そのゲームに松岡さんが勝ったら、ここから解放してあげます」


 「ほ……本当ですか?……やります!何でもやります!!」食い気味に答える松岡。


 「それではゲームの準備をしますので、少々お待ちください」そう言ったあと日笠千鶴ひかさちずるは、すぐ近くに停めてある軽ワゴンエブリイバンのバックドアを開けて、ゴソゴソと何かを探し始めた。


「ありましたよ~」5分後。嬉しそうに手を振りながら、クーラーボックスと真っ白なヘルメットのようなものを抱えて日笠千鶴ひかさちずるが戻ってきた。


 あのヘルメット……何かで見たような気がする……何処だったか……。


「それでは松岡さん目を閉じてください。私が合図するまで、絶対に目を開けてはいけません。もし途中で目を開けた場合はそこでゲームは終了。松岡さんはゲームオーバーです」


「分かった。絶対に開けない」必死に目をつぶる松岡。


「じっとしててくださいね~」そう言ったあと、真っ白なヘルメットを松岡の頭に装着する。


 さらに頭を激しく振っても外れないように首部分をガムテープでしっかりと固定。


 両手で左右前後に揺すり、簡単にヘルメットが外れないかを確認する。


 『ピピピッ ピピピッ』


 日笠千鶴ひかさちずるの腕時計からアラームが鳴る。


 アラームを止め。ゴーグルと厚手の革手袋を装着してから、クーラーボックスを少しだけ開き、中身を慎重に確認する。


 中身に動きがないのを確認してから、クーラーボックスを開き、中に入っていたものを慎重にピンセットでつまみ。ヘルメットのシールド部分にあらかじめ開けてあった穴から入れていく。


 クーラーボックスの中にあったものを全部入れ終わり。シールドの穴にガムテープを貼る。


 「松岡さん。準備ができました〜!目を開けて良いですよ〜!!」


 恐る恐る目を開ける松岡。目の前にあるものを見て「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ……絶叫をあげた。


 それは、10匹のオオスズメバチのだった。


 「松岡さん。あんまり大きな声をあげると、オオスズメバチさんが、クスクス」


 「……おい、目を覚ますってなんだよ……この大きな蜂……死んでるんだよな……」


 「松岡さんは本当に馬鹿ですね〜オオスズメバチの死体を蜂防護ヘルメットの中に入れて何が楽しいんですか、松岡さんの目の前にいるオオスズメバチは仮死状態になっているだけで……全部生きてますよ」


 「氷で冷やしたクーラーボックスの中に15分間入れておくとオオスズメバチは仮死状態になります。 30分を過ぎると本当に死んじゃうので、時間調整が本当に大変なんですよ。それではオオスズメバチさんが目を覚ますまで、私はコーヒータイムを楽しみます」


 …………


 日笠千鶴ひかさちずるは松岡から少し離れた場所にコールマンの椅子を設置。それに座りコーヒーを味わいだした。


 蜂防護ヘルメット……そうか思い出した。あれは以前テレビでやってた『迷惑生物から◯民を守れ!凄腕!危険生物◯スターズ』で蜂駆除業者が被っていたヘルメットだ。


 「蜂防護服 ラプ〇ーPRO V-200〇です。10万円もしたんですよ~アレ。蜂を寄せ付けない防護服 ……その中に蜂を入れれば、蜂を外に逃がさない逆防護服に早変わりです」


 ジジジ……ジジジ……画像が切り替わる。


 …………


 蜂防護ヘルメット内のオオスズメバチが全て覚醒。10匹のオオスズメバチは、ヘルメットのシールド部分や、松岡の顔の上をゆっくりと這い回っている。


 松岡は目を閉じ……息を殺し……オオスズメバチを刺激しないよう必死に頑張っている。


 「さぁ松岡さん。そろそろゲームを始めましょうか~♪」


 「ゲ……ゲーム?」


 「わたし大好きなゲームがあるんですよ~『太鼓の達人』って知ってますか?松岡さん」そう言いながら2本のバチをポケットから取り出す。


 「『太鼓の達人』って……何をす……」何かを察した松岡は、恐怖で言葉に詰まる。


 「これから音楽に合わせて、このバチで蜂防護ヘルメットを叩きまくります。曲が終わるまで松岡さんが我慢出来たらゲームクリアーです。頑張ってくださいね~」


 「や……やめて……ゲーム止めます……お願いします」涙を流しながら囁く松岡。


 満面の笑顔で「駄目で~す。キャハハハハハハハハハハハハ」日笠千鶴ひかさちずるのスマホから軽快な音楽が流れ始める。


 「やめ……やめ……やめて……やめて……」


 「いきますよ~はいドンドンドン。ドドンがドン。ドンドンドン。ドドンがドン。」


 音楽に合わせて蜂防護ヘルメットをバチで叩きまくる日笠千鶴ひかさちずる


 攻撃されたと認識したオオスズメバチが、臨戦態勢に入る。


 『カチカチ』『カチカチ』『カチカチ』『カチカチ』『カチカチ』『カチカチ』


 強靭きょうじんあごを使って、警戒音を鳴らすオオスズメバチ。


 蜂防護ヘルメットの中。10匹のオオスズメバチが一斉に松岡の顔面を攻撃する。


 松岡の頭。瞼。鼻。唇。頬。を刺しまくるオオスズメバチ。


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。」


 痛みのあまり頭を振って暴れ回る松岡。それを自分への攻撃と認識したオオスズメバチが、さらに松岡の顔面を何度も何度も何度も何度も何度も刺しまくる。


 「まだ始まったばかりですよ松岡さん。いきますよ~はいドンドンドン。ドドンがドン。ドンドンドン。ドドンがドン」さらに蜂防護ヘルメットを叩きまくる日笠千鶴ひかさちずる


 「かひゅっ……くる……」松岡の全身にじんましんが出来始める


 「キタキタキタ~アナフィラキシーーショーーーーーーーック」


 「苦しいですか?松岡さん。今どんな気持ち?ねぇ今どんな気持ち?」笑いながら何度も松岡に問いかける日笠千鶴ひかさちずる


 松岡はその問いには何も答えず……もがき苦しみ……最後は糸が切れた人形のようにパタリと倒れ動かなくなった。


 「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ~死んだ。死んだ。死んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」笑い転げる日笠千鶴ひかさちずる


 虫に集られ。蚊に血を吸われ。オオスズメバチに何十か所も刺された松岡の死に顔は、誰か判別がつかないくらい醜く腫れあがっていた。


 最後の最後まで日笠千鶴ひかさちずるの事が、誰か分からなかった松岡。


 人を食った性犯罪者には、お似合いの死に様だ。


 ジジジ……ジジジ……画像が切り替わる。


 …………


 「あと一人。佐藤さん……待っててくださいねぇぇぇぇぇぇぇ」歓喜に打ち震える日笠千鶴ひかさちずる


 ジジジ……ジジジ……プツン……そこで画像が消える。


 …………

 

 僕は何も映っていない画面を見つめながら。この復讐を最後までやり遂げてほしい、心の底からそう思っていた。

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本当にある事故物件の話 アカバネ @akabane2030

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