憑依 ー 復讐の蒼い炎 松岡編2 ー

 ジジジ……ジジジ……画像が切り替わる。


「痒い~」「痒い~」「誰か~助けてくれ~」

 

 朝日が差し込む森の映像が映る。


 日笠千鶴ひかさちずるは、ハンモックから起き上がると、コーヒーミルで豆を挽きコーヒーの準備を始める。


 「昨日は本当によく眠れました。いつもは想像の中でしか殺せなかった相手が、今はすぐ目の前にいて呻き声をあげている。ああ……なんて幸せなんでしょう」


 「今日もしっかりと地獄を見せてあげます」


 そう呟いたあと。コーヒーを口に含み、目を閉じてゆっくりと香りを楽しむ。


 …………


 「おはようございます松岡さん。昨日はよく眠れましたか?」


 松岡の身体には沢山の虫が集り、その周りを『ぷーん』という不快な音を立てながら、大量の蚊が飛び回っている。


 「一睡も出来てねえよ……もう許してくれ、頼むよ」


 地面に頭を擦り付けて、土下座の状態で必死に懇願する松岡。


 土下座する松岡の背中にも大量の虫が這いまわっており、所々血がにじんで見える。おそらくカミキリムシが赤い液体赤ワインとはちみつを吸う過程で、松岡の背中の肉を食いちぎったのだろう。今も蜜と血が混じった赤い液を一所懸命に吸っている。


 「どうしたんですか松岡さん。昨日は私を攫うとか、私の顔は覚えたとか、怖い顔で恫喝していたのに……もっと元気を出してくださいよ~」


 「昨日は生意気言って本当にすいませんでしたぁ。もう勘弁してください、お願いします」食い気味に謝罪をする松岡。


 昨日まで強気な発言を繰り返していたが、虫による拷問を1日中受け続け、心が完全に折れてしまったのだろう。虫による拷問の恐ろしさに、あらためて背筋が寒くなる。

 

 「松岡さん昨日の話の続きになりますが、私が誰か思い出しましたか?」


 松岡は少し考えてから「…………2週間前にあったサークル主催のコンパ帰りに……その……あの部屋404号室に無理やり連れ込んだ人ですよね……あの時は本当にすいませんでした」と答えた。


 その言葉を聞いて笑顔が完全に消える日笠千鶴ひかさちずる


 「違います。一体何人の女性をあの部屋404号室に連れ込んでいるんですか松岡さん。これはさらなるお仕置が必要みたいですね」


 「ま、間違えました。1か月位前に浮間舟渡の公園前で拉致した人ですよね、本当にすみませんでした」慌てたように答え直す松岡。


 日笠千鶴ひかさちずるはそれには何も答えず。松岡の周りにドライアイスを撒き始める。


 「ちょっと待ってくれ、お、思い出した2か月前の赤羽北の公園で……」日笠千鶴ひかさちずるの怒りに染まった顔を見て、言葉に詰まる。


 次々に犯行を自供していく松岡。日常的にあの部屋404号室に女性を連れ込んでは強姦しているのだろう。


 こいつらには地獄すら生ぬるい。そう強く感じた。


 「もう一つヒントをあげましょう。あなたたちは、私をあの部屋404号室で犯した3日後に、サークル仲間と海に行っていました」赤い液体赤ワインとはちみつを激しく上下に振りながら答える日笠千鶴ひかさちずる


 「海……海なんて何回も行ってるし……すぐには思い出せねえよ……いつ頃の事か教えてくれよ、頼む」


 「坂口さんは、このヒントで私のこと思い出したんですけどねぇ……。松岡さん、ひょっとしてあなた馬鹿なんですか?」


 「坂口……坂口もここにいるのか、どこにいるんだ」


 「あそこですよ、ほら」日笠千鶴ひかさちずるが指さした先には、深緑色のシュラフ(寝袋)が転がっており、顔の部分が少しだけ開いている。


 目を凝らしてその隙間を見る。それは自ら舌を噛みきり苦悶の表情を浮かべる坂口の死体だった。 


 「さ……坂口……ああああああああああああああああああ」坂口が死んでいる事に気付いた松岡は、失禁しながら絶叫をあげた。


 「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハ」松岡の絶叫に合わせて、日笠千鶴ひかさちずるの笑い声が響く。

 

 「松岡さ~ん。坂口さんが『淋しいよ~淋しいよ~』って言ってますよ。早く逝ってあげないと~」


 「許してくれ~自首する、自首するからぁ、だから命だけは助けて下さい。お願いします。お願いします。お願いします」

 

 地面に何度も頭を叩きつけながら、必死に懇願する松岡。


 ジャバジャバジャバジャバ……。


 必死に命乞いを繰り返す松岡の頭にゆっくりと赤い液体赤ワインとはちみつをかけていく。


 「いま松岡さんが言ったような台詞。坂口さんが言わないはずありませんよねぇ」


 日笠千鶴ひかさちずるの目を見て恐怖に怯え、震えだす松岡。


 「金……お金もお支払いします。親に頼めば1000万位は用意出来ると思いますので、それで許してください、お願いします」


 日笠千鶴ひかさちずるは何も答えず、ポケットから280mlサイズのペットボトルを取り出す。中には白い液体が入っている。


 「その台詞も坂口さんから聞きましたよ~松岡さん。あなたはもう終わりなんですよ」


 チョロチョロチョロ……。


 ペットボトルのフタを開け、白い液体を坂口の身体に少しずつふりかけながら日笠千鶴ひかさちずるが囁く「いまあなたがすべき事は命乞いではありません……念仏を唱えることです」


 「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 「また6時間後にお会いしましょう。それまで悔いのないようしっかりと念仏を唱えといてくださいね……松岡さん」


 「待って下さぁぁぁぁい、まだ死にたくない~俺にはまだ、やりたい事が沢山あるんだぁぁぁぁ~死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない……」


 必死にもがき暴れまわる松岡。


 ジジジ……ジジジ……画像が切り替わる。


 …………


 あれだけヒントを出しても、最後まで日笠千鶴ひかさちずるの事が誰か分からなかった松岡。


 怒りで気が狂いそうだ。早く松岡が無残に死ぬ姿をこの目で見たい。


 僕は心の底から、そう思っていた。


 …………














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