憑依 ー 復讐の蒼い炎 松岡編 ー

 私は、完全犯罪を目指してはいません。


 日本の警察は優秀ですから、私に辿り着くのも時間の問題でしょう。


 あと二人……松岡と佐藤を地獄に送るだけの時間が稼げれば、それで充分です。


 あいつ等を殺める事に、私の良心は全く痛みませんが、目的を果たしたら私自身も命を絶つつもりです。


 あの日、どうしても飲めなかった大量の睡眠導入剤。


 今度は、飲めるといいのですが……。


 …………

 

 松岡さんの拉致には、坂口さんほどゆっくり時間をかけていられませんので、少し強硬手段を使いました。


 夜の22時。


 松岡さんのバイトが終わる時間に合わせて、松岡さんの自宅近くに車を停め。


 バイト帰りの松岡さんに声をかけました。


「ちょっと車が故障しちゃって、エンジンがどうしてもかからないんです。少し見ていただけませんか?」


 松岡さんが私に興味を持ちやすいように、出来るだけ扇情的な服を着て行きましたので、松岡さんはノリノリで車の中を覗いてくれました。


 『バチバチバチッ』


 私に背を向けた所で、スタンガン一発。


 ようこそ『ちずるのわくわくキャンプ場』へ。


 …………


 ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……松岡の映像が映る。


 坂口が拘束されていた場所に、坂口と全く同じ方法で、松岡が拘束されている、もちろん全裸で……。


 ペットボトルの水を松岡の顔にぶっかける。


 「ん……んん……ここは」松岡が目を覚ます。


 「おはようございます松岡さん、よく眠れましたか」満面の笑みで松岡に挨拶する日笠千鶴ひかさちずる


 「なんだ、この手錠は、おいなんだよこれ、外せっ」両手両足の手錠をガシャガヤとさせながら、喚き散らす松岡。


 「あらあら、あいさつもちゃんと出来ないなんて、松岡さんは、本当にお馬鹿さんですね~クスクス」


 「舐めてんのか、てめえ。攫っちまうぞ、コラぁ」


 「はぁ~自分の置かれている状況を考えてから言ってますか松岡さん。攫われているのはアナタですよ」


 「ふざけやがって、お前の顔はしっかり覚えたからなぁ」拘束された状態で、必死に襲い掛かろうとする松岡。


 「元気があって非常によろしい」体育教師よろしく日笠千鶴ひかさちずるが、松岡を褒める。


 「それでは『ちずるのわくわくキャンプ場』の元気なお友達に集まっていただきましょう~」


 そう言ったあと、ニコニコと嬉しそうにドライアイスを撒き始める日笠千鶴ひかさちずる


 「おい、何やってやがる。ふざけんなよ、おい聞いてんのか」


 松岡の質問には答えず、ドライアイスを撒き終わると今度は、赤い液体赤ワインとはちみつが入ったペットボトルを上下に激しくシェイクする。


 「松岡さん6時間後に同じセリフが言えたら、褒めて差し上げます」そう言ったあと、赤い液体赤ワインとはちみつを松岡の頭からかける。


 「うあっ、ぷわっ、なっなんだこれっ、ワインか」


 ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……映像が切り替わる。 


 …………


 サングラスをかけ、ハンモックに揺られながら優雅にフルーツジュースを飲む日笠千鶴ひかさちずる


 離れでは『ちずるのわくわくキャンプ場』の虫さん達が大集合。松岡の絶叫と悲鳴が山に響いている。


 「坂口さんの時もそうでしたが、松岡さんの悲鳴を聞きながら飲むドリンクは、絶品です。……味はしませんが」


 「坂口さんの時は3時間に1回確認に行ってましたが、松岡さんは6時間に1回に変更しました」


 時計のアラームを6時間後にセットして、瞼を閉じる日笠千鶴ひかさちずる


 「松岡さんの顔を見ていると……つい……殺したくなってしまうので……クスクス」


 「それでは、6時間後にお会いしましょう」

 

 ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……映像が切り替わる。


 …………


 「松岡さ~ん、ご機嫌いかがですか?」


 「何度も呼んだの聞こえてたろクソ女。この手錠を早く外せ」


 松岡の身体には、数えきれないほどの湿疹ができていた。それは症状の重い蕁麻疹のようになっており、その湿疹の上からさらに、蚊。アブ。ブヨ。ヤマビル。マダニ。といった血を吸う虫たちが容赦なく松岡の血を吸っている。 

 

 「あらあら松岡さん、ずいぶんと強気じゃないですかぁ~また6時間後にお会いしましょう」バイバイと松岡に手を振る日笠千鶴ひかさちずる


 「待ってくれ、いや……待ってください」


 「おや、ちょっとは素直になったようですね」


 「なんでこんな事するんだ、あんたと俺は初対面のはずだろ」


 「いえいえ松岡さん、あなたと私は前に一度お会いしてます」


 日笠千鶴ひかさちずるの顔を見て、必死に思い出そうとする松岡。


 「駄目だ、思い出せねえ。何かヒントをもらえねえか」


 「404号室」凍えるような声色で日笠千鶴ひかさちずるが呟いた。


 その言葉を聞いて、一気に顔色が変わる松岡。


 「違うんだ、あれは佐藤が無理やり……俺はやりたくなかったんだ」


 「はいはい、そういうのは間に合ってますので、私の事は誰か分かったんですか?」


 「…………分かんねえ」


 「では、頑張って思い出してください。それではまた明日~」あらためてバイバイと松岡に手を振る日笠千鶴ひかさちずる


 「待ってくれ、トイレに行かせてくれ。もう限界なんだ」


 笑顔で振り返って「そこで垂れ流してください」と地面を指さす日笠千鶴ひかさちずる


 「うそだろ。おい、待ってくれよ、おい」


  ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……映像が切り替わる。


 …………



 


 

























 

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