憑依 ー 復讐の蒼い炎 坂口編3 ー

 ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……朝日差し込む森の映像が映る。


 「朝目が覚めると、小鳥のさえずりのように、遠くから坂口さんの呻き声が聞こえる……」


 「最高の朝です」


 日笠千鶴ひかさちずるは、ハンモックから起き上がると、コーヒーの準備を始める。


 「味覚があった頃は、砂糖とミルクがないと苦くて飲めなかったんですけど、味覚がなくなってからはブラック派になりました」


 「香りを楽しみたいときは、砂糖とミルクは邪魔なんですよ」


 コーヒーを口に含み、目を閉じて香りを楽しむ日笠千鶴ひかさちずる


 ゆっくりコーヒーを楽しんだあと。坂口に朝の挨拶をする。

 

 「おはようございます坂口さん。昨日はよく眠れましたか?」


 「ね……眠れるわけないだろ……1日中虫が身体を這いまわって……チクリチクリと何度も何度も……ここは本当の地獄ですよ」


 坂口の身体中を、今も無数の虫が這いまわっている。


 「あらあら、それは大変でしたね~キャンプはまだ始まったばかりですよ、坂口さん。夜はしっかり眠らないと~」


 「…………警察に自首する。もちろん佐藤と松岡にもしっかりと罪を償わせる。だから許してもらえないか、僕はまだ……死にたくない」


 地面に頭を擦り付ける坂口。


 「随分とまあ自分に都合の良い事をペラペラと、あなたたちは犯された女性の事を、一度でも考えたことはありますか?」


 「そ、それは……」


 「ありませんよね、あなた達は私を犯した数日後。何事もなかったかのように、海に行ってはしゃいでいた。そんな人間が被害者の事を考えるわけがない。あなたたちは人の皮を被った獣ですよ」


 「き……君は、あの時の女子高生か……本当にすまないと思っている。心から反省している。信じてくれ」


 「あなたたちが警察に自首して、刑務所に何年か入って、私たち被害者はいくらかのお金を受け取って『悪い夢だった』と自分に言い聞かせて生きろと?」


 日笠千鶴ひかさちずるの言葉に、怒りの感情がこもる。


 「これから何年も、何十年も、私の命が尽きるその瞬間まで、あの日の事を毎日毎日、思い出しながら生きて行けと?」


 目の前にある投光器を思い切りけり飛ばす日笠千鶴ひかさちずる


 「私が、どれだけ苦しんだか分かりますか?」


 「分かりませんよね、分かるはずがない……」


 「私の気持ちが分かるまで、お前はここで虫さんたちとピクニックだ『もう殺してください』と泣いて懇願するまでなぁぁぁ」


 「そしてお前は、ここで死ぬんだよおおおおお……虫に集られながら、糞尿を垂れ流しながら……惨めに……ゴミのように……」


 「お前が死んだあとは、淋しくないように、松岡と佐藤もすぐに地獄に送ってやる~」


 「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハ」気が触れたように笑う日笠千鶴ひかさちずる


 「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。僕はまだ死にたくない。誰か、誰かぁぁ助けてくれええええええ」自分が殺されると理解した坂口が、手足を必死にばたつかせて叫ぶ。


 「アハハハハハハ。聞こえませ~ん。誰も来ませ~ん。残念でした~」


 それを聞いた松岡は「いやだぁぁ死にたくないよ〜ママぁ、ママぁぁぁ」と涙を流しながら、盛大に失禁した。


 「あ~あ~泣きながらオシッコまで漏らして、本当に恥ずかしい人ですね~」 


 「そうそう良いものがあるんですよ坂口さん。ちょっと待っててください」


 何かを思い出した日笠千鶴ひかさちずるは、急いで軽ワゴンエブリイバンに向かう。


 ゴソゴソと車内を物色したあと、昨日とは違う色のクーラーボックスを担いで戻ってきた。


「いやだぁぁ。ごめんなさぁぁぁい。ごめんなさぁぁぁい」違う色のクーラーボックスを見て、お化けに怯える子供のように、泣きながら謝る坂口。


「ハイハイ、大丈夫ですよ。ママがふきふきしてあげますからね~」そう言いながら坂口の目にタオルを優しく巻き付ける。


「こわいよおおお、こわいよおおお、こわいよおおおおおおお」目隠しをされ恐怖に怯えた坂口が、さらに失禁した。


 日笠千鶴ひかさちずるは笑いながら両手に厚手の皮手袋を装着し、クーラーボックスの中から一枚の大きな葉っぱを取り出した。


「今から坂口さんの大事な所を、キレイキレイしてあげますから、大人しくしててくださいね~」そう言ったあと。


 手に持った謎の大きな葉っぱで、失禁して汚れた坂口のアソコを優しく包み込み、そのあと激しく上下に擦りあげた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」悲鳴を上げながら暴れだす坂口。葉っぱで擦った箇所が、あっという間に赤黒く変色していく。


「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハ」坂口の悲鳴に合わせて、日笠千鶴ひかさちずるの狂気に染まった笑い声が、山中に響き渡る。


 そこで ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……シーンが切り替わる。


 …………

 

 ハンモックに寝転び、バタバタと足をばたつかせながら、嬉しそうに笑っている日笠千鶴ひかさちずるの姿が画面に映る。


 遠くでは、叫びすぎて声が出なくなってしまった坂口が、苦しみながらのたうち回っている。

 

 あの葉っぱは一体何だったのだろう……僕はそう思いながら画面を見つめていた。


「あの葉っぱは『ギンピーギンピー』です。復讐計画のために裏ルートで用意した特別品です」


 僕の心の声に日笠千鶴ひかさちずるが答える。


「『ギンピーギンピー』はイラクサ科の植物で、根から葉まで全体に毒針を持っていています」


「その毒針はグラスファイバーのように細かく、鋭い毛は一度触ってしまうと奥深く刺ささり、細かくて手で抜くことは不可能です」


「『ギンピーギンピー』には、こういう逸話があります。野外で用を足した人が、トイレットペーパー代わりに『ギンピーギンピー』の草を使ってしまった。用を足して少しすると、針で刺すような強烈な痛みに襲われる。一日中もがき苦しみ、最後はその痛みに耐えられず、自らの銃でこめかみを撃ち抜いて自殺したと……」


 そこで画面が暗くなる。


 …………


 真っ暗な画面から日笠千鶴ひかさちずるの言葉だけが、聞こえる。

 

 「……失敗しました」


 「坂口さんが、舌を噛んで自殺しました」


 「『ギンピーギンピー』の逸話は、どうやら本物のようですね……」


 「もう少し坂口さんと遊びたかったのですが、私も頭に血が上ってしまい、冷静ではありませんでした」


 「この事を教訓に、松岡さんと佐藤さんには『出来るだけ長く、出来るだけ苦しめてから』を徹底する事にしましょう」


 「次は松岡さんです」


 …………


 ついに日笠千鶴ひかさちずるは、最後の一線を越えてしまった……。


 …………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る