憑依 ー 復讐の蒼い炎 坂口編2 ー

 「坂口さんに振りかけた赤い液体の正体は、赤ワインに、はちみつを混ぜたものです。有名な闇金の漫画に出てくるやり方なんですが、今回の拷問に使わせていただきました」


 「私の復讐計画で一番大事にしている事は『出来るだけ長く、出来るだけ苦しめてから』という事です」


 「身体を傷つける拷問は世の中に沢山ありますが、痛さや恐怖でショック死する可能性がゼロではありません。その点、虫さんは最高です。虫に多少刺されても、死ぬことはまずありませんから……フフフ」


 「赤い液体赤ワインとはちみつを坂口さんに振りかけてから3時間ほど経過しています……今ごろ坂口さんがどうなっているのか、結果が楽しみです」

 

 …………


 ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……日笠千鶴ひかさちずるが画面に映る。


 日笠千鶴ひかさちずるは少し手前に車を停めて、坂口の様子を観察していた。

 

「誰か~ 誰か~ 助けてくれ~」


「頭のおかしい女に拷問されているんだ~ 助けてくれ~ 殺される~」


 坂口は必死に声を張り上げて、助けを求めていた。


「全く『頭のおかしい女』だなんて、失礼しちゃいます。坂口さんには、追加でペナルティが必要みたいですね」


 軽ワゴンエブリイバンに乗った日笠千鶴ひかさちずるが帰ってきた。


 今まで大声で助けを求めていた坂口だが、軽ワゴンエブリイバンが見えた瞬間、急に大人しくなった。


 充電式の投光器を手に持ち、坂口に向かって大きく手を振る日笠千鶴ひかさちずる


 ワインの匂いと甘い蜜に誘われた、夜行性の虫たちが、これでもかというほどに坂口に集っていた。


 アリ。アブ。ブヨ。ガ。クワガタ。カマキリムシ。カメムシ。セミ。バッタ。カマドウマ。ダニ。ヤマビル。


 そしてもちろん、大量の蚊。


「あやさん……助けてくれ、もう限界だ……僕は本当に虫が苦手なんだ」涙を流しながら必死に訴える坂口。


 坂口は誰か見分けが付かないないほど、顔の形が変わっていた。それはまるで12ラウンドフルで打たれ続けた、試合後の負けボクサーのような感じだった。


「ただいま帰りました、坂口さん。良い子にしてましたか?」


「もちろん良い子にしてました。彩さんが帰ってくるのを、大人しく待っていました」息を吐くように嘘をつく坂口。


「えらいえらい。お利口な坂口さんには、何かご褒美をあげないといけませんね~」うーんと笑顔で悩んだふりをする日笠千鶴ひかさちずる


「それなら頼みがある、蚊取り線〇を焚いてもらえないだろうか、もう限界なんだ……痒くて痒くて気が狂いそうだ」


「蚊取り線〇ですか、分かりました」


 日笠千鶴ひかさちずる軽ワゴンエブリイバンの後部座席から、クーラーボックス、柄杓、追加の赤い液体赤ワインとはちみつを持って戻って来た。


 早速クーラーボックスを開けて、坂口の周りに柄杓でドライアイスを撒き始める。


「彩さん……僕は蚊取り線〇を焚いてくださいとお願いしたんですが……」


 ドライアイスを撒き終え、今度は赤い液体赤ワインとはちみつが入ったペットボトルを、笑顔で上下にシェイクする日笠千鶴ひかさちずる


「おい、まさか、またそのベタベタするワインをかけるつもりか、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ」


 坂口の言葉は完全に無視して赤い液体赤ワインとはちみつを坂口の全身にぶっかける。


「う、うわっぷ、ぷわっ、や……約束が違うじゃないか、ご褒美を貰えるはずじゃあ……」


「坂口さん、に一体何を求めているんですか?」


「き、聞いてたのか」

 

「はい、この耳でしっかりと」

 

 そう言いながら投光器の角度を調整。坂口の全身をしっかりと照らしてから、ネジを固定する。


「ふわ~、今日は色々と楽しい事が多すぎて、すっかり眠くなってしまいました」


「待ってくれ、寝る前にこの虫を何とかしてくれ。頼む、この通りだ」


 必死に土下座して頼み込む坂口。


「まだ少し早いですが、夜更かしは美容にも悪いので、私はそろそろ寝ますね坂口さん。おやすみなさい」


 ぺこりと頭を下げてから、坂口に背を向ける日笠千鶴ひかさちずる


「お前は鬼だ、悪魔だ、死ねぇぇ、死んでしまえええええ」


 その叫び声を聞き、悪魔のように微笑む日笠千鶴ひかさちずる


 寝る前の日課にしている、ストレッチを軽くこなしたあと、蚊帳付きハンモックに潜り込む。


 後方からは、投光器の光に寄って来た、新たな虫たちに集られ悲鳴をあげ続ける坂口。


「坂口さんの悲鳴は、まるでクラシック音楽のように心地良い。今日は良い夢が見れそうです」


 日笠千鶴ひかさちずるの瞼に合わせて、画面がゆっくりと暗くなった。

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