第15話 『新たなる選択』

  あなたは生きるうえで選んだ数々の選択肢のうち「この選択は失敗したなぁ~」と思ったことが何度ありましたか?


 恋愛、進路、人間関係、私達は幾度なく選択を迫られます。


 恋愛。あの時、勇気を出していれば、彼女(彼)と付き合えたのに。


 就職。あの時、違う道を選んでいれば、こんなに苦労することはなかったのに。


 人間関係。あの時、あんなことを言うべきではなかった。


 いつも後悔は後からやってきます。


 でも、もう大丈夫!


 あらゆる選択をズバッ!と解決!


 あなたの正解の道を教えます。


 お悩み、お困りごとは全問探偵事務所へご連絡ください。


 お電話はいち、ぜろ、ぜろ、ぜろのキュー!


 1000-9~(選択~)全問探偵事務所~♪


「うむ!素晴らしい!」


 パチパチパチパチ!


 私はテレビで流れていたCMに拍手を送る。


 けっこう有名になったので、思いきってCMを依頼したのだが、今日が初放映なのだ!


「さすが私の先生!肩を揉みますね」


 探偵見習いで私の助手、巨乳女子高生解答ハズスが頼んでもいないのだが、私の肩を揉む。


「……あ、ありがとう」


 久しぶりに80階建てタワーマンションの80階に陣取る『全問探偵事務所』の豪華絢爛なベルベット調のソファーに座り寛ぐ私だが、どうも同居する彼女達の様子が最近、おかしい。


「んっ……あっ……んぁ」


 肩を揉むハズス君の声がやけにイヤらしく聞こえるのは気のせいだろうか?


 しかも、力強く揉んでくれているのだが、肩よりおっぱいが当たっている首筋の方が気持ちがいいのが難点だ……。


「あ、ハズスちゃんに正解、おっは~」


 なぜか同居している見た目は派手なギャルだが、根は優しい元カノ、実原ヤサシイがスポーティーなタンクトップとショートパンツ姿で欠伸をしながらやってきて、私の隣に座る。


「正解!見てみて!ごほうし看護学校!首席で卒業したよ!」


 彼女は卒業証書を広げて見せた。


「おお!ヤサシイ!すごいじゃないか!」


 素直にすごいと思った私は、ヤサシイの髪をグシャグシャにしながら、い~こい~こする。


「えへへ!やったね!」


「すごい!ヤサシイさん!私も同じとこ狙ってみようかな~。先生の介護も考えないといけないし……洗濯してきま~す」


 ハズス君が何やら失礼なことを言って、席を外した。


 私はまだ若いぞ!


 ん?私がヨボヨボのお爺さんになるまで一緒にいるつもりか?


「正解、おはよ。コーヒー入れたわよ」

 

 肌触りのよさそうな紺色の無地柄キャミナイトドレスを着た現役警察官で元カノ、気月ヨイが両手にコーヒーを持ってやってきた。


「いつもの砂糖3つね」


 ヨイはソファーの前にあるテーブルにコーヒーを置くと私の隣に座った。


 今朝の違和感はこれだ!


 ヨイはいつもの私の向かいの椅子に座る。


 今日はなぜか隣に座った。


 朝から両手に花状態の私は「CM効果かな?」と入れてもらったコーヒーをいただく。


「あ、ヨイピー肩に虫がついてるよ」


 ヤサシイがヨイの肩を指差す。


「え!うそ!やだ――!!」


 ヨイが立ち上がり後ろを向く。


 んぐ!?


 その隙にヤサシイは私にキスをした!


「あれ?いない?虫、どっかいった?」


 ヨイがソファーに再び座り、こちらを向く寸前でヤサシイの口唇が私の口唇から離れる。


「あはは!ごめん、糸屑だった~」


「もう、驚かせないでよ~」


 ヨイは肩を手で払いながら、ふぅ~と安堵の溜め息をつく。


「……コホッ」


 コーヒーが変なとこ入った。


「ちょっと大丈夫~?あ、正解のCMよ!」


 ヨイがテレビを指差す。


「本当だ!すっごい~!!」


 ヤサシイはテレビに釘付けになる。


 ……さわさわ。


 ――!!?


 ヤサシイがテレビのCMをガン見しているのをいいことに、ヨイが私の股間をまさぐる。


 さわさわ……ギュ!……さわさわ。


 あ、ダメだって!……あぁ~。


「すごいね!正解!」


 ヤサシイがこちらを向く寸前でヨイの手が引っ込む。


 ……みんな、どうしたんだ?


 やけに積極的だ。


「喉乾いた~。水飲む~」


 ヤサシイが台所へ向かう。


 ヨイはヤサシイの後ろ姿を見ながら、私の耳に口を当て、囁いた。


「私を選んだこと、まだ彼女達に内緒にしましょ。愛してるわ、正解」


 ヨイは私の頬にキスをして「仕事の支度してくる~」と部屋に戻っていった。


 すれ違うように洗濯物を取り込んだハズス君が戻ってきて、私の隣に座る。


「先生、私を選んでくれてありがとう。でも、卒業するまでこの関係はみんなに黙っておこう。いろいろ世間体もあるしね。あ、でも、手は出し放題だよ。女子高生をいただけるのは今だけだからね」

 

 ハズス君が私に寄り添う。


「と、トイレに行ってくる!」


 急に恥ずかしくなり、私は席を立つ。


「あん、先生……恥ずかしがり屋さんなんだから」


 手を振りながら私を見送るハズス君を横目にトイレへ急ぐ。


「何かがおかしい……何かが……」


 トイレの前で偶然、ヤサシイと鉢合わせする。


「あ、正解もトイレ?一緒にする?」


「バ!バカなこと言わないの!」


 ちょっと想像して前屈みになる。


「ごめんごめん。でも、私を選んでくれてありがと。正解のことは、いつでも、どこでも、私が全部受け止めたげる。もちろん、変態なところもね!あ、しばらくみんなには内緒ね!よろしく~」


 ヤサシイは上機嫌で自分の部屋へ戻っていった。


 ガチャ。


 私はトイレに入り、束の間のひとりの時間を過ごす。


 ちょっと頭の中がごちゃごちゃしたから、落ち着いて整理しよう。


 えっと、ハズス君は女子高生で手を出した……。ヤサシイはギャルで積極的で手を出した……。ヨイは気が強いけど、夜は案外従順なんだよなぁ……はは……ははは……。


「三人と付き合ってることになってる――!!」


 私は頭を抱えながら声にならない声を上げた!


 どうして、こうなった!?


 思い出してみる。


 不思議と三人に告白した記憶が断片的に思い出される。


 え?私、三股してるの?


 やばくない?


 これでもけっこう有名な名探偵だよ?


 頭の中に『名探偵全問探偵、恋の選択肢は全問不正解』という新聞の見出しが浮かぶ。


 やばいやばいやばい!


 どう考えてもやばい!


 救いがあるとしたら、全員、秘密にしようと言っていることだ。


 藁にもすがる気持ちで額に人差し指を当ててみる。


 肝心の選択肢は頭に浮かばない。


 私は頭の中に選択肢が浮かぶと、その選択を外したことがないのだ。


 たぶん、神様がくれた特別な力だと思っている。


 だが、今はまだ、選択肢は現れない。


「まだ、選択の時ではないということか……」


 私は観念してトイレを出た。


「あ、先生~学校に行ってきま~す。チュッ……えへへ、続きは帰ってからしようね~」


 ハズス君が私にキスをして玄関を出る。


「……いってらっしゃい」


「正解発見!ぎゅ~!パワー充電100%完了!就活行って来ます!帰ってきたら、また充電してね」


 玄関のドアが閉まると同時に現れたヤサシイは、私にしばらく抱きついてから、スカートをチラッと捲ってから玄関を出た。


「……いってらっしゃい」


 どうやって充電するのだ?


「あ、正解。出勤するわね。ちゃんとご飯食べるのよ」


 玄関のドアが閉まると同時に現れたヨイは、玄関でハイヒールを履いている。


「……ん」


 ヨイが人差し指で自分の口唇を指す。


「え?」


「もう!いってきますのキスよ!わかるでしょ!……んっ」


 ヨイがもう一度、口をつむって目を閉じる。


 私はヨイにキスをした。


「ありがと。帰ったら、また私に手錠かける?なんてね、いってきま~す」


「……いってらっしゃい」


 ……手錠?


 バタン!


 玄関のドアが閉まり、ひとりになった私は、しばらくその場で立ち尽くした。


 数秒、数分と立ち尽くした私は、ひとり叫びながら頭を抱えた。


「絶対、無理――!!バレる!バレる!バレる!何してるの私――!!」


 うろ覚えな過去の私に恨みを言って、それが無意味なことだと悟る。


「ま、なんとかなるか……」


 絶対にどうにもならない時の代名詞『なんとかなる』を口にして落ち着いた私は、ポストに溜まっている依頼人からの手紙を取り出すと部屋に戻り、ソファーに腰かける。


「とりあえず、依頼をこなそう」


 私は一枚ずつ封筒の封を開けながら、次に解決する依頼を眺める。


 私は一枚の古ぼけた封筒に入っていた手紙を手に取り、なんとなく眺めた。


「こ、これは――!?」


 私は立ち上がる。


 手紙を持つ手が震えた。


 次回、名探偵、全問探偵が数多の困難な選択を見事に正解へ導く!


 立ちはだかる強敵。


 絶体絶命の罠。


 そして、試される愛。


 『名探偵 全問探偵~笑い方を忘れた花嫁と機械仕掛けの美術館~』


 乞う、ご期待!!

 

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名探偵 全問正解の選択肢。 @tamago-x-gohan

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