子供のころ氷室冴子の『ざ・ちぇんじ』にはまっていた自分にとって、この作品は当時の心躍る読書体験を思い出させてくれる印象的な一作でした。
時は平安時代。お仕えする姫君に男君を手引きしたという濡れ衣を着せられ、翻弄される幼い女房、木葉。そしてその主、祥姫。ふたりは乳母子と主君という関係であり、幼少時より誰よりも近しい存在として双子のように育ってきました。その関係が、いつしか歪んでいきます。
厳然たる上下関係と男性優位社会、それにコミュニケーションの基盤となる和歌に文など、いまでは物珍しくもある文化的背景が、若い女性たちの嫉妬心、将来への不安、自己の探求などいつの時代にあっても変わらぬ問題と融合し、深みのあるドラマとなっています。
木葉はなぜ言われのない罪を負わされることになったのか、祥姫がすっかり変わってしまったのはなぜなのか、それにもと同僚女房だった朝顔の変貌の理由は? いくつもの謎が提示され、謎が謎を呼び、それを読み解く鍵として登場する和歌。まだ年若い木葉が女房として不器用にも成長していきながら、謎が徐々に解けていったとき、彼女と祥姫はそれぞれ自らの手で新たな道を選び取り、歩み始めることになります。
細やかでしっとりとした心理描写に飲み込まれるような作品です。
『宰相の君は、姫君のお付き女房』のスピンオフ作品。
男が女のもとへかよって、秘め事をするのが普通、の平安時代。
それでも、いけない恋、禁断の愛、というのはあります。
主人である高貴な身分の姫ぎみが、その、いけない恋、をしてしまった。
しかもそのことで、お付き女房の木葉(このは)は、相手の男ぎみを手引きしたと、濡れ衣をきせられてしまうのです。
親友のような関係だった姫ぎみによって、罠にはめられてしまった木葉(このは)。
そのうえ、なおも姫ぎみは、木葉(このは)=外記を、罪の道連れにしようとします。
こんな仕打ちをされた木葉(このは)=外記の、密かな反逆が始まります。
彼女の反逆が成功するかどうか、ぜひ、見届けてください。