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「どう思ってるんだ?」
「誰に聞いてるの?」
質問を質問で返したら、言葉ではなく、睨み目で返された。
その後も名指ししないところを慮るに、彼は誰にともなく問いかけたようだ。
「私は、困ってる人がいるって言うなら、力になりたいわ」
少しの沈黙を置いて口を開いたのは【高嶺の美樹】だった。
「困っとるなんて、1ミリも書いてへんかったやろ」
「困ってる人があの会長のことを指すなら、話は別だけどな」
【電脳】の反吐に、唾を吐いたのは【菩薩】だった。
その不機嫌露わな顔に、私はわざとらしく眉をしかめる。
「あなた、本当に【菩薩】?」
「何が?」
長髪を1つに結んだ男子生徒は、やはり不機嫌な顔で問い返してきた。
「あなた、あの【菩薩】でしょ? 何をしても怒らない。後光がさすほどの眩い笑顔で、すべてを許すって噂の」
「ちゃうやろ。仏の顔も3度までから、許す回数は3回いう回数制限ありや。その分我慢しとるだけやから、怒らせたらめっちゃ厄介。耳が早いこともあって、何を吹聴されるか分からへんってな。そんで、仏ほどの気高さは高校生にない言うことで、より身近な呼び名として【菩薩】呼ばれとるだけや」
私の言葉を否定したのは【菩薩】ではなく、【電脳】の仇名を持つパソコンオタクだった。【菩薩】本人は大げさに首をかしげてみせるだけだった。
生徒会と風紀しか知らないはずの【仇名】なのに、なんでこいつらはさも当然と知っているんだか。
「それで? どう思うって、何に対して言ってんの?」
話を切りかえたのは、松木だった。
「奈落の底につき落とす幽霊を明るみにして欲しい。だっけ?」
嫌味の代わりに向けられたのは、噂にきく後光をさす笑顔だった。
会長の言葉を確かめたい? いや、【菩薩】が確かめたいのは、そんなことじゃない。
鼻で笑って返すと、同じしぐさで返された。
「ここ、座っていい?」
「好きにしたらええやろ」
松木の声に、つんけんした【電脳】の声が続いた。松木はそのまま、適当な席に座った。
「話すのよね?」
私はそれでも立ったままの【菩薩】に確認する。まったく座る気にはならないけど。
「そうなるな。協力するなら」
【菩薩】は視線を巡らせて、みんなの顔色をうかがっているようだ。
そしてやっぱり、【菩薩】も席に着く気はなさそうだ。
「ねえ、座らないの?」
松木の疑問に、皆が視線を巡らせる。
少しして、誰からともなく、席に着きはじめた。
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