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「で? どうするつもりだよ」

「どうするも何も、実在するなら探しだすしかないんじゃない?」


 松ちゃんの言葉に、すぐさま面倒くさそうな顔色を浮かべたのは【菩薩】だった。


「俺たちは警察か?」

「そんなこと風紀にでも任せればええやろ」

「適材適所ってあるものね」


 そんな【菩薩】に賛同したのは【電脳】だけではない。私だって、不満満載だ。

 生徒会に関わる気なんて、毛頭ない。


「じゃあ、俺らに頼むだけの理由があるんだろうね」


 察しろ――なんて、体のいい言い訳にしか聞こえない。できれば、無視したい。

 だけど、

 

「私達には協力する以外の選択肢はない――のよね?」


 彼女が握っている秘匿は、拒絶という選択肢を奪っているのだ。

 私の再三の確認に、頷くものはいない。だけど、反論も異論も上がってこない。ただ視線を逸らすだけ、だ。

 どうやら私たちは全員、彼女の掘った穴に落ちてしまったむじなに過ぎないようだ。


「何をしろって?」


 どうにも進むしかない道への一歩を最初に踏み出したのは【菩薩】だった。

 

「その突き落とされたって人たちに話を聞くくらいしかできないと思うけど」

「俺は掲示板をあたるわ。直接関わるなんて気持ち悪い」


 何に? と聞こうとしたが、野暮だなと思って止めた。この中で1番の人間嫌いは彼だろう。表面的に、かもしれないけど。なんにしろ、毎分毎秒パソコンと睨めっこしていると噂の【電脳】に、対面対応を求めるのはナンセンスだ。


「正直に話すと思うなよ。あいつらが正直に話すなら、俺たちは巻き込まれてなかったんだからな」

「分かってるわよ。そこまで馬鹿じゃないわ」


 かな切り音をあげて立ちあがった【菩薩】に、誰からともなく続いた。あらかじめ用意されていた椅子は古すぎて、静かに立ち上がることは無理そうだ。


「俺は特進と文Ⅰ当たるから、おまえらは英語科当たれよ」


 捨てるように吐き捨てられた言葉に、はたと振り返る。

 【菩薩】はすでに、カバンを肩にかけて教室を出ていこうとしていた。


「その前に、そのリストを貰いたいんだけど」

 

 呼び止めた言葉に、【菩薩】だけではなく【電脳】まで振り返って、嫌そうで――いや、これは見下されている。「とんだ馬鹿がいたもんだ」とでも言いたげだ。

 

「知らないのかよ」

「とんだ足手まといやな」


 しかも、鼻で笑われた。

 

「知ってる方がおかしいのよ」

 

 腕を組んでその嫌味全てを跳ね返しても、2人は気にも留めないであしらうように手を振って帰っていった。

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