6
「そもそも学校の七不思議って何があるの?」
松木の質問に、【菩薩】は嘆息をこぼした。
「美術室のモナリザ、化学室の人体模型、音楽室のピアノみたいな定番なものから、職員室の魔物なんていう独特のものまであるけど」
「奈落の底の幽霊は、この学校特有やな」
「それで? その内のどれが実証されてるの?」
「七不思議ってそもそも実証されるようなものじゃないだろ」
「幽霊を実証ってあほくさい」
「じゃあ、さっきの人にもそう伝えればよかったんじゃない? 帰るのを見送るんじゃなくて」
松木は椅子をギイギイと鳴らして、余裕をひけらかす。
「お前が伝えて来いよ。懸念することが何もないならな」
「好きであんな戯言に付き合うわけないやろ」
「大久保さんもなの?」
「あんたに話すことは何もないわ」
松木を睨むと、鼻で笑って返された。
忌々しい。なんでこんな奴と言葉を交わさなければならない。
「なら、どうするの? 彼女のお願いは、私達にはどうすることもできないんでしょう?」
お願いとは、実に可愛い言い方をする。なんて思ったのは、きっと私だけじゃないはずだ。
【菩薩】も【電脳】も、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
【高嶺の美樹】は脅してきた相手にも、救いを与えそうだ。
「実証とは言ってないわ」
「証明だな」
「明るみやろ」
「明るみと証明って、同じ意味じゃない?」
松木の聞き返しに、誰も返事はしない。
「まあ、見ている奴はいるしな。幽霊か実物かは別として」
「実物なら、明るみにすることはできるで。せやけど、そうなると」
「殺人未遂、だな」
【菩薩】と【電脳】からスラスラ出てくる言葉は、私の眉間のしわを増やした。
残念ながら私は、この学校の七不思議に明るくない。
「どんな七不思議?」
「屋上に呼び出されて、振り向いたら白いワンピースを着た幽霊がいて、気づいたら落ちてた」
「いつも植木に助けられて、怪我を負うけど死にはせん。計ったように、いつもA 邸の雁木に落ちるんや」
「もしかして、実際に被害者がいるってこと?」
2人は視線を合わせるわけでもなく、何か言いにくそうに――いや、これはまだ説明をしなければいかないのかとでも言いたげに、少しの間を置いた。
「噂では。突然大けがして、学校を休んだ奴らが、そうなんじゃないかって言われてる。でも、大事になってないだろ? だから、あくまでも噂だ」
「何人いるの?」
「3人や。今のところ」
「確認したやついるんじゃない?」
「みんな否定してる。幽霊なんていないってな。幽霊に呼び出されたって騒いでたやつまでもな」
今度は説明を終えて、間ができた。
この間で各々が何かを考えているなら、どれだけまともな集まりなんだろう。
そうじゃないことは一目瞭然だった。
【菩薩】は青空を横目に上の空だし、【電脳】はお友達のノートPCと楽し気に会話中。松木は天井を見上げて無を描いている。
「ねえ、待って。奈落の底に突き落とす幽霊? それとも、奈落の底の幽霊?」
ふと湧いた疑問に
「それ、意味あるか?」
「幽霊を実証しろ言うのと同じくらい、馬鹿くさい」
「大久保さんって、言葉遊びが好きなの?」
返ってきたのは嫌味の羅列。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます