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  他の生徒より少し遅れて教室に向かう。

 授業中のためか廊下は静かで、室内用運動靴のゴムの音が響いていた。これ以上はゆっくり歩けない。そう思うほど、教室に行くのは億劫だった。たとえ、ヤツがいるであろうC組のクラスの前を通る必要がないとしても。

 学校を嫌いだと思ったことは1度もない。億劫だと思ったことも。今、足が重く感じるのは、そんなどうでもいいことが理由じゃなかった。

 教室に着くと、相変わらず空席が目立った。

 私立教唆高等学校は、4つの学科があり、各学年4クラスある。学科は特進、英語、文Ⅰ、文Ⅱの順で成績が良く、クラスはAからD組まで、成績順で割り振られている。だから必然的に特進科のA組は秀才の集まりで、文Ⅱ科のD組はおバカクラスということになる。文Ⅱ科D組は、テストで白紙1枚出したくらいでは落ちることはないと言われている。白紙3枚プラス赤点2つくらいでギリギリだろうか。そもそもテストを受ける生徒が少ないから、正式な成績が計れるわけがないのだけど。

 何も見ていないかのように授業を進める教師を傍目に、席に着く。

 代り映えのない毎日。ただ、時間の流れに身を任せているだけで、1日なんてあっという間に過ぎていく。

 それで良かった。

 私はただ、板挟みだったあの家から、逃げたかっただけだから。

 ……それなのに。

 今、私の中に靄が広がる。じんわりと、薄暗い靄が、胸のあたりから、膨らみはじめている。

 

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