悪友は地の果てまで追ってくる。~嫌われ者の生き方~ 第三幕 

巴瀬 比紗乃

オープニング


  大久保おおくぼ 稔流みのるは息を切らせ、だだ長い階段を駆け上がっていた。

 頭が真っ白になるほどの体力を使い切り、今では走馬灯が脳内を流れている。

 思い出したくもない思い出の数々が彼との初対面を想起させ、忘れないように焼きつけている思い出がくすむ。それでも自身の中の憎しみが霞むことはなく、むしろ腹から膨れ上がっているのを毎日感じていた。

 ただ、その在り処だけが、不本意にもすり替わってしまいそうで。それがまた、稔流の中で憎悪を生んだ。

 稔流の身体の中で派生する負の連鎖は、今にも彼女を支配してしまいそうだった。しかし稔流は必死にその手綱にしがみつく。同時に、自身に問う。

 なんのために私はここにいるのか、と。

 ただ時間が流れるままに過ごしていた毎日に、今、意味が生まれそうで。それはきっと良いことなのに。受け入れがたい理由は、行き着いた扉の先にあった。

 存外に大きな音を上げて、扉は開いた。

 そこは誰も寄り付かない、資料室。そこには、私立教嵯高等学校しりつきょうさこうとうがっこうの歴史が展示されていた。高校の成り立ちから関係者名簿など、この学校の詳細が知れる唯一の場所だ。薔薇色の高校生活に思いを馳せる生徒たちが興味を持つはずがない。

 そんな普段なら人気のない教室に、この日この時間だけ、人が溢れていた。


「遅いよー、大久保さん。自由な校風だからって、遅刻が許されるわけじゃないんだよ?」


 扉を開いた先、煤原すすはら あおいを中心に、集まった一同が大久保の方を振り返った。総勢6名でいっぱいになった教室の異様さに、大久保は眉根のしわを深くす。


「なんて、分かってるか。大久保さんは」

「やっぱり、遅刻はわざとか」

「【幹部】の名は伊達やないな」


 嫌味に迎られ、前途多難の四文字が脳裏をよぎった。



 

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