後日談:その話は後世まで語り継がれることになる
あの日の出来事は人々の間で長く語り継がれることとなる。
何の前触れもなく襲いくる魔鳥と魔獣の群れ。人々がなすすべなく逃げ惑う中、神鳥に乗った王弟と乙女が不思議な力で魔の生き物を退けたと。
その神々しいまでの光景は、たまたま上空を目撃した王都民の間で話題になり、あっという間に国中に噂となって広がった。
行方不明となっていた王弟殿下は、王都の危機に駆けつけてくれた。
連れていたのは、神鳥を操る力を持つ聖なる乙女だ。
王弟殿下は伝説の神鳥と聖なる乙女を探す旅に出ていたのだと。
そして王弟は一年後に乙女ーー子爵令嬢ロザリンドと結婚した。
聖教会で挙げられた挙式は、それはそれは盛大なもので、王都に住む民ならず近隣からも人が押し寄せた。
聖教会の教皇ノアは二人の結婚を祝福し、子爵令嬢ロザリンドを「聖なる乙女」と呼び、神鳥を操る唯一無二の力を持つ人だと言った。
子爵令嬢という身分ながら、王都を救った人物としてロザリンドは大歓迎をされた。
「……真実は全く違うが、人の噂というのは恐ろしいものだな」
レクスは自分の出生の秘密に衝撃を受け、責任を放り出して城を出てあてもなく放浪していただけで、ロザリンドに出会ったのは全くの偶然である。
「なんか自作自演みたいで申し訳ないわ……私のせいで王都に無用な混乱をもたらしたのに」
ロザリンドはそう言ってバツの悪そうな顔をした。
「ロザリーのせいじゃない。誰もあんなことが起こるだなんて思いもしていなかったんだから、仕方ない」
「そうじゃぞ、気に病むでない。退けたのだからよしとするのじゃ」
レクスとカラドリウスに励まされたロザリンドは曖昧に頷く。
今のロザリンドは王城の一角で暮らしていた。
子爵令嬢とはいえ、ランカスター子爵領で職人として働いていたロザリンドには王弟の妃として覚えるべきことがたくさんあった。
王城に出入りする重鎮の顔と肩書きを覚え、その家族である夫人やご令嬢やご子息とも懇意にし、マナーを学び、社交術を身につける。
たくさんの侍女や使用人に囲まれて身の回りのあれこれの世話を焼いてもらう。
連日連夜、これまでとは異なる生活を送っていた。
アレクシスはロザリンドを見て心配そうな表情を浮かべた。
「城での生活は大変だろう。無理していないか?」
「大丈夫よ。気分転換もきちんとしているから」
ロザリンドの気分転換はカラドリウスに乗って空を飛び、こっそり子爵領に戻ることだった。
自身で羽根ペンを作ることができないので、弟子を育てているのだが、時々工房に顔を出して色々と教えている。王弟の妻となったロザリンドが行くと皆驚くのだが、最近では慣れて来たのか歓迎されるようになった。
「カラ様の速度があってこそできる技よね」
「ロザリンドは軽いのでいくらでも乗せて飛べるわい。いつでも頼ってよいぞ」
「ありがとうございます」
カラドリウスが胸を張って言うので、ロザリンドは微笑んで礼を言う。
「ノア教皇も、あれから大人しくなった」
国王陛下誘拐事件を起こしたノアは、実はレナードこそが王弟であると知り衝撃を受けていた。
その後にロザリンドが王都を救ったことにより、その力が衆目の知るところとなり、アレクシスとの結婚式ではここぞとばかりにロザリンドが神鳥カラドリウスの力を使う「聖なる乙女」であると宣言した。
「結局全部がうまくいったってことでいいのかしら」
「いいんじゃないか。あぁ、ひとつだけ、残っている問題がある」
「何?」
アレクシスはロザリンドの手を取ると、じっと見つめた。
「……ロザリーの命が尽きるときは俺もともに死ぬ」
それはきっと、ロザリンドがカラドリウスに寿命を差し出す約束をしたことを気にしての言葉だろう。
「重い告白ね」
「命を救われたんだ。それくらい当然だろう」
くすりと笑ってしまう。
「じゃあ、うんと長生きするから」
「期待している」
この先もずっとずっと平和に暮らしていくために。
二人の誓いは静かに交わされた。
+++
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ☆での評価をお願いします。
羽根ペン作りのロザリンド〜その子爵令嬢と王弟殿下が出会ったら〜 佐倉涼@1/30もふペコ料理人2巻 @sakura_ryou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます