第2話 俺たちの戦いはお風呂のあとだ!

 時刻は昼。

 国王から路銀ろぎんと魔王の居場所がしるされた地図を受け取ったファイブカラーズは現在、王城の浴場前に来ていた。


「なんで!? 早く旅に出ようよ! 急がないと来期のアニメが始まっちゃう! まだ今期のアニメ全部見れてないのに!」


「知らんがな!」


 動揺するアイドル系イケメンのレッドを、金髪ポニーテールのイエローが一喝いっかつする。


「女子が魔王怪人と決戦して汗と泥にまみれてたら、お風呂に入れなはれってオカンに教わらんかったんか?」


「そ、そんなピンポイントな教え、受けてないよ」


 無茶苦茶なことを言うイエローに、レッドは恐る恐る反論した。


「もー、そんなんだから童貞なんだよ」


 首を傾けてつやのある黒髪をらし、あざとく見上げるピンクに、


「ど、どどど童貞じゃないし! ちげぇし!」


 レッドは黒目を反復横跳びさせながら否定する。


「いや、動揺し過ぎて中学生みたいな口調くちょうになっとるがな」


 イエローはあきれた様子で言うと、残りの男たちにも話を振った。


「そういや、ジブンらはどうなん?」


「フッ、めてもらっては困ります。私は告白されたことは星の数ほどありますが、二日以上続いたことは一度もない」


「舐めるも何も、予想通りやったわ。グリーンは?」


 メガネ位置を直しカッコ付けるブルーを一蹴いっしゅうしたイエローは、ソース顔の男に目を向ける。


「そもそも地球をけがす人類を増やす性行為に、なんの意味がある? 人類が今の数から減少することこそ」


「もうええわ。よー考えたら、オドレらの性経験なんて興味なかったわ。さっさと身ぃきよめるでー!」

 

「む、無茶苦茶だ、この人」


 レッドは疲れた声を出すと、男女はそれぞれの浴場へと向かった。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


「うわー、ひろー」


 吹き抜けで見上げるほどの天井と、テニスコートが二面は入りそうな浴場に、レッドは圧倒された。

 局部きょくぶを隠していたタオルを落とすほどに。


「おや、レッドのレッドは毛がほとんど生えていないのですね」


「ちょっ、見ないでよブルー! 気にしてるんだから!」


 まじまじと局部を凝視ぎょうしするブルーを、レッドはたしなめた。


「いえ、私と同類なのだなと思いまして」


「え⁉︎ ブルーのブルー、毛が一本も生えてない。なんで?」


 仁王におう立ちで堂々とイチモツをさらけ出すブルーに、レッドは疑問を投げかける。


「レーザー脱毛ですよ。あまりの痛さに開始2分で号泣し、お姉さんにあやされながらやってもらったお陰で、クールなナイスガイになれました」


『いや、その過程で尊厳そんげん捨てとるやないか!』


 壁をへだてた隣の女子浴場にいるはずの、イエローから飛んできたツッコミ。

 レッドは身をすくめ、周囲に目をやった。


「え⁉︎ イエロー⁉︎ どこ?」


『隣や隣。ここの設計者、女の会話がそっちに聞こえるよう、敷居しきいの壁の上に隙間つくっとるんや! 見つけ出してシバきたいわー!』


のぞいたら、罰金一億か目潰しだからねー』


 イエローとピンクの物騒な言葉が、浴場中に反響する。


「そっちこそ、このグリーンのしげったグリーンを覗くなよ」


『覗くかボケー! 毛ほども興味ない男どもの陰毛いんもう情報を聞かされた身にもならんかい!』


 顔の濃いグリーンは毛も濃く、まるで森林のターザンのようだった。

 その後は、会話が筒抜けということもあり、全員無言で身体を洗っていく。

 しかし、しばらくすると、


「イエローの胸、ほんとムカつくほどでかいよねー。さすがアメリカ人」


「ウチは大阪生まれ大阪育ちの大阪人や。この前、外人に道きかれてもアイキャントスピークイングリッシュしかゆえんかったわ」


「あー、はいはい。そーゆーのいーから。ちょっと乳もませてーな、ねーちゃん」


「オッサンの転生者か、オドレは。てっ、ちょっ、ホンマにもむ奴が、ひゃっ」


 女子浴場から男子浴場へ、桃色の空気と黄色い声が届いてきた。

 一足先に身体を洗い終え、並んで湯にかっていたレッド、ブルー、グリーンの三人は顔を真っ赤にし、いたたまれなくなる。

 レッドは立ち上がると、

 

「も、もう上がろうか!」


 ブルーとグリーンに呼びかけた。だが、


「いや、俺はもう少し聞いて、じゃなかった、浸かっていたい」


 グリーンは浴槽に根を張ったかのように動かなかった。


「いいから行くよ、グリーン」


「性に無関心ぶっておきながら、とんだムッツリ野郎じゃないですか」


「おい、二人して俺のわきジャングルを掴んで引っ張るな。行けばいいんだろ、行けば」


 レッドとブルーは、それぞれがグリーンの脇に生い茂る毛を掴み、湯船から引きずり出し、浴場を後にするのであった。

 一方その頃、女子浴場では、


「ええ加減にせえよ! この淫乱いんらんピンク!」


「いったぁ〜。ぼーりょくはんたーい」


「やかましいわ! 口ん中に生まれたてのタコ焼きつめ込んだろか!」


 ピンクにゲンコツをお見舞いしたイエローが、怒り心頭しんとうで湯船に浸かろうとしていた。

 その時だった。


「まさか2話目にしていきなりお風呂回をやるとは思わなかったぞ」


 即座に声のした方へ振り返るイエローとピンク。


「お前は--」


 イエローは驚きの表情を浮かべ、その者の名を口にした。






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