第4話 俺たちの戦いは買い物のあとだ!

「え⁉︎ スッポン怪人が‼︎」


 浴場で起きた騒動そうどう概要がいようを聞いたレッドは、驚きの声を上げる。

 異世界に転移してから二時間後、彼らファイブカラーズは王城を出て、城下町に向かい歩いていた。


「ホンマ驚いたで。あの感じやと、今まで倒した怪人らもこっちに来とるんかもな」


 レッドの言葉に、イエローが返す。

 街並みは徐々に王族の気品ある豪邸から、庶民的な民家へと変わりつつあった。


「あー、まじめんどーい」


 今後予想される戦闘にピンクは項垂うなだれて、辟易へきえきした声を上げる。

 垂れ下がった黒髪は貞子さだこを連想させた。


「フッ、なるほど。つまりどういうことですか?」


 いつも通り頭がついて来てないブルーが、メガネに指をたずねる。


「魔王討伐にいく道中、今まで倒した怪人をまた倒し、今度は確実に土にかえすということだろ」


 グリーンがバカ(ブルー)にもわかるよう説明した。


「還すって、あっちの世界のバケモンやけどな。けど案外、怪人らはこっちの住人やったんかもな」


 独自の見解けんかいを述べるイエロー。それにレッドが反応する。


「どういうこと?」


「ピンクがで殺したスッポン怪人を王様らにあげたけど、なんやふつーに喜んではったわ」


「茹でたの!? そして、あげたの!?」


 レッドは驚きの余り、普段は出さない声のボリュームが出た。


「るろうに剣心で志々雄真実ししおまこともゆうとったやろ。この世は弱肉強食やって」


「志々雄様は人型スッポンを殺して食えとまでは言ってないよ」


「まあ、そんなことはええねん。それよか、旅の買い出しませるで!」


 あきれた声を出すレッドを軽く流すと、イエローは市場の入口で快活な声を発する。

 城下町の中心にあるその市場は、まるで南米のようだった。木箱に崩れそうなほど商品が詰まれ、喧騒けんそうが絶えない。

 様々な人種の人間が談笑し、金銭と物品を交換していた。

 扱っている品は、レッドたちがいた世界の物と似ているがどこか違うといったおもむきの物ばかりだった。


「女は何かと買わないかん物があるさかい、(男どもは)各々、旅に必要なもんうて一時間後にココ集合な! ほな解散!」


「よろしくねー」


 言うだけ言って、イエローとピンクの女子コンビは去っていった。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 一時間後、


「ごくろーさん」


 すでに市場入口に戻っていたレッド、ブルー、グリーンの男子トリオに、声をかけるイエロー。

 その後ろにピンク、さらに後ろに大量の荷物をかかえた男がいた。

 

「ありがとねー。今度、買い物に来た時デートしてあげる。……とうぶん来ないけど」


 容易よういに状況をさっせられる光景に、レッドたちはあわれみの目を荷物運びの男に向ける。


「で、なにうてきたん?」


「とりあえず、一番必要な画材がざいを」


「なんでやねん!」


 レッドの予想外な回答に、イエローは反射的に歴史あるツッコミワードをぶつけた。


「アニメがない生活なんて耐えられない。だから、僕が二次創作で自給自足するしかないんだ。そうしないと僕は」


(まだこっち来て一日もってへんのに、アニオタが禁断症状を発症しとる。こわ)


 ひとみから光がせたレッドを見て、イエローは寒気さむけを覚えると、恐怖を誤魔化ごまかすためブルーに話を振る。


「ブルーはちゃんとしたもん買うてきたんやろうな?」


「フッ、当然です。全員分のメガネを買ってきました。いるでしょ?」


「いるかボケー!」


 ブルーのドヤ顔がかんさわったイエローは、彼のほおしたたかにビンタした。

 メガネが割れた。


「ほ、ほら、買っておいてよかった」


「お前のそれ、カッコ付けの伊達だてメガネやろがい!」


 割れたメガネを外して見せつけるブルーに、イエローは大声をびせる。

 そして、グリーンの後ろにあった荷車を指して続けた。


「グリーンを見習みならえ! ちゃんといもん買うてきとるやないか! 野菜にいちじるしくかたよっとるけど!」


「これは観賞かんしょう用植物だ」


「食えへんのかーい! なんで植木鉢うえきばちあるんやと思っとったけども!」


 イエローは思わず空に向かって叫んでいた。


「もー、お使いもろくにできないの?」


 イエローの度重たびかさなるツッコミと、ピンクのイラッとする発言に、男たちも反感を覚える。


「そ、そういうイエローたちは、なに買ってきたんだよ」


「そうだ、そうだ! メガネより必要な物などない!」


「けっこーあるわ」


 声に苛立いらだちをにじませるレッドに、ブルーが便乗びんじょうした。

 それをイエローが軽くいなす。


「女はねー、美容液やら、化粧水やら色々といるんだよ。わりになりそうなもの探すの大変だったー」


 ピンクが液入りの瓶を持って言うと、


「飲めない人工液なんて旅にいらないだろ」


 グリーンがばっさりと吐き捨てた。

 これに露骨に嫌悪感を見せたピンクは、


「うるさいなー。男は下水でも飲んだら?」


 と冷酷に言い放つ。

 レッドはどうしてここまで言われなければいけないんだと思ったが、ふと一時間前のイエローの言葉を思い出した。


『女は何かと買わないかん物があるさかい、(男どもは)各々、旅に必要なもんうて一時間後にココ集合な! ほな解散!』


「……ひょっとして、各々って男たちはって意味だったの?」


 文脈から省略されていた単語に、今になって気づいたレッド。そんな彼に、


「せやで」


「うん」


 イエローとピンクは、何を今更といった顔で、相槌あいづちを打つ。


「なんか文句あるんか? 風呂場で全裸の女たちが襲われとる間、外でジュース飲んどったボンクラども」


 痛いところを突かれた男たち。


「……いえ、ありません」


 レッドは男たちを代表し、軍門に下る。


「やったら、王様んとこ行って追加の金たかりに行くんやで」


「正義の味方なのに!?」


 レッドはイエローの無茶苦茶な要求を拒否したかったが、路銀ろぎんを使い果たした彼らに、他に選択肢はなかったのであった。

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