第3話 俺たちの戦いはお風呂のあとだ!2

「まさか2話目にしていきなりお風呂回をやるとは思わなかったぞ」


 即座に声のした方へ振り返るイエローとピンク。


「お前は--」


 イエローは驚きの表情を浮かべ、その者の名を口にした。


「カメ怪人!」


「スッポンだ!」


 イエローに被せて否定するスッポン怪人。

 姿形はスッポンそのものだったが、成人男性ほどのサイズで二足立ちしている様は、怪人と呼ぶに相応ふさわしい奇怪さがあった。


「あれー? 去年倒さなかったっけー?」


「せや! 一片いっぺんのDNAも残さんと合体最終奥義で消し飛ばしたはずや! 生きとったんかワレぇ!」


 イエローはかろうとしていた湯船からピンクの前に移動し、臨戦態勢りんせんたいせいをとった。


「気づいたらこの世界に来ていたのだ。それからは、お前らにリベンジする機会にそなえ、鍛え続けたのだ!」


「その成果がのぞきか、しょーもな!」


「違う! まさか2話目でいきなりお風呂回をやるとは計算外だったのだ!」


「なんや分からんが、お前がメタ的な発言をしとるんは分かるで」


 誤解を解こうと声を荒げる怪人に、イエローは分からないなりにこたえる。


「ふっ、だが好都合。それぞれが固有能力を持つスーツを脱いだお前たちなど、甲羅こうらなき亀に等しい」


「ウチは固有能力なんて使わんけどな」


「そうなのか? しかし、裸で羞恥心しゅうちしんに耐えながらの戦いづらさはあるだろ?」


「大丈夫や! 小説やさかい裸体は読者のとぼしい実体験による妄想でぼやけるし、仮にアニメになっても、発生源不明な謎の光がウチらの恥部ちぶを隠してくれるはずや! 知らんけど!」


「大丈夫か!? お前もたいがいメタ的な発言をしてるぞ!」


 動揺を隠せない怪人に、イエローは挑発的な笑みを浮かべる。


「人の心配より、ジブンの心配したらどうや?」


「ん? どういう……」


 言いかけて、怪人はある変化に気づく。


(なんだ? 湯気がかなり濃くなってる?)


 心を読んだかのように、イエローは怪人に浮かんだ疑問に答えた。


「客用の風呂は常に底で火ぃくべてくれはって、清潔な湯を保つよう水も入れっぱにしてるそうや。水の量調整して好みの温度にできるしな。で、その水をさっき止めた」


(俺が姿を現して、こいつが湯船を離れた時か)


 怪人は思い当たる場面を想起した。


「そんで、なんでこんな長々としゃべっとるかっちゅうと」


 そこでスッポン怪人は気づく。

 高身長なイエローが前に立っていたことで見えにくかったピンクの姿が、今は完全に見えていないことに。


「しまっ」


 気づいた時には遅かった。

 湯気にじょうじて背後まで接近していたピンクは、タオルをムチのように扱い、怪人の首に巻きつける。

 怪人と背中合わせになると、ピンクはタオルを引き寄せ、変則的な背負い投げを実行した。

 浴場内に響き渡る、強烈な衝撃音。

 通常とは前後逆で投げられたので、怪人はうつ伏せで床に叩きつけられ、意識を失う。


「よーやった、ピンク!」


 奇襲が失敗した場合に備え、間合いを詰めていたイエローが声をかけた。


「……………」


「どっかケガでもしたんか? 見してみ」


 無言で青ざめていくピンクに、一抹いちまつの不安を覚えるイエロー。

 だが、


「ぎゃーーーー! 背中気持ち悪い! なんかブヨブヨしてたーーーー!」

 

 イエローの不安は杞憂きゆうで、ピンクは浴槽に全力ダッシュした。


「あー、スッポンって甲羅やわらかいんやっけ? って、ちょっ! 今、入ったら」


「あっつーーーー!」


 混乱しているピンクを止めようとするも一足遅く、灼熱の湯に足先を入れた彼女は、叫びながら戻ってきた。

 ピンクの叫び声で目を覚ました怪人は、


「いい気味だ。次に戦う時は、お前らを深夜枠どころか、AT-Xですら放送できないような目に遭わせてやる」


「いや、次なんて無いから」


「え?」


 ピンクは凍りつくような声を発すると、まだ怪人の首にあったタオルを手綱のようにして、ズルズルと怪人を引きずった。


「ぐえっ、ちょっ、おまっ、まさかっ⁉︎」


 そのまさかだった。

 ピンクはぐつぐつに煮えたぎったお湯に、人型のスッポン怪人を投げ入れた。

 スッポンは路銀ろぎんのお返しということで王族たちに献上し、この年だけやけに出生率が上がったという。

 

 ちなみに、女たちが戦闘中、男たちは外でトロピカルジュースを飲みながら火照ほてりをましていた。

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