第6話 映えるスイーツは食べにくい
それは、レッドたちが異世界に来る一年前の出来事。
東京都内の某公園。
広くもなく狭くもない
そんな誰もが逃げ
男は全身黒の
平日昼の炎天下で誰もいない公園では、
年の頃は五十代といった顔つきで、立派な口髭を
だが、男は似つかわしくない派手で巨大なスポーツバックを肩にかけ、両手にはタピオカミルクティーを
「すまんな。こんな
「いえ、最近はエサを求めて
「ツイッターだが、最近Xって名前に変わったらしいぞ」
「なんですか、その
「まったくだ。イーロンめ、都内在住だったら
「ありがとうございます。魔王様」
「どういたしまして。アンド、よっこいしょういちっと」
漆黒の男・魔王怪人は、ギックリ腰にならないよう
「新大久保でスイーツを買ってきた。資料を読みながら一緒に食べよう」
「お
「これ、トゥンカロンといってな。クリームを大きめのマカロンで
スポーツバックから紙皿とスイーツ、左上をクリップで挟んだA4用紙の
クマ怪人は
表紙には、こう
【要注意! 今年のヒーローはヤバいぞ!】
以下、
・桃園 桜花 / ももぞの おうか
ピンク担当、本年度にて19歳
全国高等学校 柔道選手権大会
女子無差別級 三年連続覇者
人類史上初の超軽量級者による無差別級
制覇。それを一度ならず三度。
今までに喰った実力者と男は数知れず。
・エマ・ゴールドウィン(日本国籍)
イエロー担当、本年度にて19歳
K1甲子園 女子ワンマッチ-55kg
三年連続覇者
日本に
両親にもつサラブレッド。
打撃とツッコミの
ストライカー(打撃系総合格闘家)
・緑山 林道 / みどりやま りんどう
グリーン担当、本年度にて19歳
全国高等学校剣道大会男子個人
三年連続覇者
公式・非公式問わず、敗戦記録なし。
都内の山のどこかに在住。オフの日は
常時木刀携帯のため奇襲は困難。
・青海 拳正 / あおみ けんせい
ブルー担当、本年度にて19歳
全日本空手道選手権大会
三年連続覇者
満16歳以上(つまりは大人も)出場し
無差別級のみの上記大会にて全試合
一本勝ちを果たす。
なお、本人はいまだにルールを忘れ
頭部への突き(反則)をしそうになる。
・赤崎 焔 / あかさき ほむら
レッド担当、本年度にて19歳
中学卒業後、引きこもりになる。
その後、戦隊入りするまでの経歴は
一切不明。
「どうしてこう、
マカロンとマカロンの間からはみ出るクリームに悪戦苦闘している魔王怪人が言った。
対して、クマ怪人は口が大きいので、一口で
トゥンカロンを食べ切っていた。
「魔王様。このレッドの経歴なんですが」
「何らかの力が働いておるようで、調査しても何も出てこんかった。そしてこのマカロン、めっちゃクリーム出てくるな」
「それにしても、レッド以外の経歴は目を見張るものがありますね」
「時代が違えば、四人とも
魔王怪人は、公園の
その間も、クマ怪人は会話を継続する。
「戦隊の採用条件は、ただ一つ。強いこと。それ以外の人間性、知性、品性は一切不問。容姿は願わくば
言い終えた後、タピオカミルクティーのストローを
「ああ。強さを選考基準にせんと、政治家を人外の生物から守る、などという
魔王怪人は
「ありがとうございます。一年契約とは言え、ヒーローも大変ですよね。襲ってる側が言うのもなんですが」
「ヒーロー協会。あれこそ
そう言って今度は、
「いただきます。食い物にされる若者たちには、人間と言えども同情しますね」
種族を
「そのために我々がいる。今は資金に余裕がなく、地方まで行くと往復の交通費が大変なことになるから、襲撃地は政治家の多い都内のみになっているが、ゆくゆくは全国の汚職政治家を
言葉の合間にワッフルをかじりつつ、魔王怪人は
「この命尽きるまでお
「お前たちには苦労をかける。交通費削減のため自転車移動させているせいで、襲撃するまでに必ず戦隊を呼ばれてしまうのも悪いと思ってる」
魔王怪人はワッフルを食べるのを中断し、心の底から申し訳なさそうに、心情を
「我々怪人の膨大な食費を、お一人で
「正義の、いや、政治の味方として、合法的かつ市民権を得た上で税を投入されシステム化された戦隊制度。そんな援助のもと、
語りながらワッフルを食べ終えた魔王怪人は、真っ
「承知いたしました」
「奴らはこのポイ捨てされたタピオカ容器と同じ。放置できん存在だ」
そう言って、魔王怪人はマントからレジ袋を出すと、足元に転がる容器と自身が飲み終えた容器を入れる。
「ん」
「あ、ありがとうございます」
魔王怪人がちょうだいといった
「政府は無能だが馬鹿ではない。公安や
「きっと成功するはずです。性欲が強いのがたまにキズですが、彼は優秀です」
「そうだな。それに万が一失敗しても、ファブカラーズがおもちゃの
「すごい! さすがです、魔王様!」
賛辞の言葉をくれた部下に対し、魔王怪人は気まずそうな表情をすると、ゆっくり言葉を
「だから、あれだ。もし、故郷に帰りたいのであれば、わざと負けてもいいんだぞ? もとはと言えば、
「何をおっしゃるんですか!
「……儂ほど部下に恵まれた男はいないな。よろしく頼む。クマ怪人よ」
「はい!」
部下からの熱い言葉に、
(それにしても、これほど優秀で
口の周りをクリームでベタベタにした魔王怪人に、母性のような奇妙な感情を抱く。
「魔王様。クリーム、ついてますよ」
「なに! おのれ、ワッフルめ」
(だが、こんな人だからこそ、こちらも命を張れるのかもしれない)
またしても水栓柱で口元を洗う魔王怪人を見て、クマ怪人は決意を固めるのであった。
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